人工知能研究者・エッセイスト 黒川伊保子さん 言葉が達者だった息子と物語の展開力のある孫 脳は育ちたい方向に育っていく

黒川伊保子さん(坂本亜由理撮影)

各界で活躍する著名人が家族との思い出深いエピーソードを語るコーナーです
孫と遊び、お風呂、添い寝
夫と息子夫婦、3歳の孫と5人で暮らしています。今は孫育ての真っ最中。生後2カ月からずっと、夜は一緒に遊んでお風呂に入って、添い寝しています。息子のときとほぼ同じくらい接しているのですが、2人が全く違う育ち方をしていて、面白いです。
息子は言葉が達者でした。3歳になる少し前、保育園では一人で上手に食べるのに、私の前ではスプーンも握らず、ただ口を開けて食べさせてもらおうとするので、「あなた、自分で食べられるよね。自分で食べたらどうなの」と聞いたんです。彼は悪びれもせず私の手をそっと握って「こんなにきれいな手が目の前にあるのに?」と言ってのけました。そのロマンチックなコミュニケーション力たるや、大人の男性顔負けでした。
片や、3歳になったばかりの孫は「てっちゃん、いる」みたいな2語文がやっと言えるようになったくらい。でも、ストーリーの展開力がすごくある。孫が泥棒役、私が警察役でミニカーを使って家中を街に見立てて追いかけっこするのですが、崖から落ちそうになったらヘリコプターで、火事が起きたら消防車で助けなきゃいけない。彼が監督として求めてくるんです。私はへとへとになりながら演じるんですが、息子のときはこういうのはなかったなと。孫は孫で違う才能が脳に芽生えているんだと思います。
母が幸せなら家は明るくなる
脳の研究を長年してきましたが、人間は脳をまんべんなく使えるわけではなく、言葉が強い子もいれば、物語をつくるのが得意な子もいる。息子と孫を見ていると、脳はそれぞれ育ちたい方向に育っていくんだと実感します。「トリセツ」シリーズで子育ての経験を書いてきましたが、こうしたらうまくいったという話は、あまり参考にならないなと最近は思います。
何かを強要すると、その子が伸びている部分をつぶしてしまうこともある。他の子と比べて、できないことを気にするのは無駄なこと。育ちを邪魔しないのが大事ですね。
孫育てでは、祖父母が孫の両親を甘やかすことも大事かな。お嫁さんと一緒に住むことになったとき、「この家は私が幸せになる家だったけど、今日から、あなたが幸せになる家になりました」と伝えました。あなたが幸せなら、息子も孫も幸せでいられる、と。家族って、誰か一人を幸せにすると決めると、うまく回るものだと思います。
これは私の父の教えでもあります。父は「この家は母さんが幸せになる家だ。家族のことは何が正しいかじゃなく、母さんが幸せかで判断する」と宣言していたんです。母さんが幸せなら家が明るくなる、それでいいって。「家族は甘やかすもの、家は散らかってるもの」。これが、私の座右の銘です。こう覚悟を決めたら、いらつかなくなる。家族ってそれでいいのではないでしょうか。
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
1959年、長野県生まれ。奈良女子大理学部卒。システム関連会社で人工知能(AI)の研究に従事。2003年に会社を設立し、脳科学の知見を生かしたコンサルタントや執筆活動を行う。18年出版の「妻のトリセツ」(講談社)は発行部数40万部超。以降、家族にまつわるトリセツシリーズを出版し、近著に「孫のトリセツ」(24年7月、扶桑社)。
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