水難事故のきっかけは?「これで、おぼれた。」100事例を発信 記録に残らない「ヒヤリ」に注目 海のそなえプロジェクト

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シンポジウムの会場に掲示された「これで、おぼれた。『おぼれ100』」のパネル=東京都千代田区で(中村千春撮影)

 「浮き輪で、おぼれた。」「波打ち際で、おぼれた。」―。重大な事故には至らなかったものの海や川でヒヤリとした100の事例を、その背景となった状況や行動、思い込みや油断とともに交流サイト(SNS)などで発信する取り組みが始まった。名付けて「これで、おぼれた。『おぼれ100』」。溺れに至るきっかけを可視化し、「自分もやってしまいそう」「身に覚えがある」との共感につなげ、危険を回避する行動を促す狙いだ。

なぜ起こった? どうすればよい?

 例えば、「追いかけて、おぼれた。」という事例には、海に入ったビーチボールを慌てて追う子どものイラストが添えられている。画面を操作すると、畳みかけるように行動の理由「WHY」が続く。

 「自分のものが流されると諦めきれず追いかけてしまうから!」「追いかける時は必死なため流された物しか見えないから!」「危険予測をする間もないため周囲の状況を確認していないから!」「あと少しで手が届くと無理をしてしまうから!」

 どうしたらよいかのアドバイス「HOW」として「ものが流されても追いかけない! ものが流されても大人は子どもを怒らない!」と呼びかけ、最後は格言風の言葉で締める。「流れたものには/さようなら/諦める勇気」

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日本財団 海のそなえプロジェクト「これで、おぼれた。『おぼれ100』」から

思い込みや油断に潜む「事故の芽」

 企画・作成したのは、水難事故防止の啓発に注力する「日本財団 海のそなえプロジェクト」。既存の行政データや報道調査だけでなく、これまで蓄積されてこなかった「事故未満の軽度な溺れ体験」に注目し、調査・反映したのが特徴だ。

 救助機関が関わるような事故にはならなかったケースを「軽度な溺れ」と定義。自身や同行者が海で溺れそうになった経験がある1000人を対象に昨年8月、その状況や原因、浮具の有無などをインターネット調査した。

 その結果、溺れに至る要因として浮かんだ状況を既存のデータなどと集約し、溺れる前の「危険の予兆」として整理。100の事例にまとめ、今年5月下旬、海洋問題に取り組む「うみらい環境財団」が主催したシンポジウムで発表し、公式ウェブサイトインスタグラムで公開した。

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シンポジウムで話す海野光行さん=東京都千代田区で(中村知春撮影)

 日本財団海洋事業部常務理事、海野(うんの)光行さんはシンポジウムで、水難事故が減らない背景として「事故の情報をどう集め、見せ、届けていくかが、これまでは足りていなかった」と指摘。「『助かったから記録されなかった声』に注目し、自分ごととして感じてもらえるような情報の届け方が必要」と説明した。

 インスタグラムでは100の事例ごとに体験を募集している。海野さんは「『浮輪があれば安心』『浅瀬だから少し目を離しても溺れない』といった思い込みや油断に事故の芽が潜んでいることが見えてきた。溺れる前に何があったかという視点を社会全体で共有し、備えはみんなでつくるんだという意識を広げるきっかけにしたい」と話す。

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「あなたの体験をコメントで教えてね!」と呼びかけるパネル

ファミリー向け体験プログラムも

 プロジェクトは今夏、「溺れ」への意識を高めるための新たな取り組みを、他にも2つ実施する。東京都江戸川区のカヌー・スラロームセンターでは6~9月、流れのある環境でのリアルな体験を通して溺れの実態や回避するための判断と行動を学ぶ教育プログラムを、ファミリーや指導者向けに提供する。

 神奈川県の三浦海岸海水浴場では、7月12日~8月16日の毎週土曜に「海のそなえハウス」を開設。ライフジャケットなどのアイテムを使い方や泳力に合わせて試着し、実際に海で使い勝手を比べることができる。

 カヌー・スラロームセンターで行われる教育プログラムへの参加申込みや詳細は、専用のサイトで案内している。

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