53人の園児を守った保育士がいた 「疎開保育」で戦争を見つめ直そう 映画「あの日のオルガン」

(2019年2月19日付 東京新聞朝刊)
 太平洋戦争末期、2歳から6歳の園児53人を東京から埼玉県蓮田市に集団疎開させた保育士たちがいた。東京都多摩市在住のライター、久保つぎこさん(75)が関係者を取材してまとめた記録集「あの日のオルガン」が昨夏に再刊され、同題の映画が今月、全国公開される。久保さんは「疎開保育の話を通じて、それぞれが戦争の実態を見つめ直してほしい」と話す。
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著書を手に「二度と戦争をしないために何ができるか、一人一人が考えて」と呼び掛ける久保さん=東京都千代田区で

空襲が本格化した太平洋戦争末期 東京・戸越→埼玉・蓮田

 1944年秋、米軍機の本土爆撃が本格化する中、東京都品川区戸越の保育園では、空襲から園児たちの命を守るため集団疎開を決める。保育士8人や炊事係ら計11人が引率した。

 疎開先は荒れ寺で、親元を離れた寂しさからおねしょを繰り返す子どもを励まし、近隣の村人からは食糧難なのに食べるばかりの「消費班」との陰口にも耐えて面倒を見た。記録集ではそんな若き保育士たちの献身的な姿を描く。

ライター・久保さんが取材した記録集 再刊、映画化

 久保さんは80年秋から保育士や元園児、保護者らを取材し、82年に記録集「君たちは忘れない」を出した。戦後ずっと保育士たちが教え子に自らの体験を語り続けてきたことを知り、「話を聞いた子どもたちは戦争の悲惨さを実感し、忘れないはず」との思いを本のタイトルに込めた。

 それから30年以上が過ぎ、「教え子らが社会の中核を担う日本が再び戦争を起こしかねない状況になってしまった」と危機感を抱いていた時に、再刊と映画化の話が舞い込んだという。

写真 「あの日のオルガン」の出演者たち(ⓒ2018「あの日のオルガン」製作委員会)

「あの日のオルガン」の出演者たち(ⓒ2018「あの日のオルガン」製作委員会)

「子どもの命が軽んじられている今こそ伝えたい」

 映画を企画した制作会社「シネマとうほく」社長の鳥居明夫さん(70)は「虐待やいじめ、貧困…。子どもたちの命が軽んじられている今だからこそ、困難な時代に53人の命を守り抜いた保育士の存在を伝えたい」と語る。

 「あの日のオルガン」(朝日新聞出版)は、四六判296ページ、税込み1620円。映画(平松恵美子監督、119分)では、保育士のリーダー役を戸田恵梨香さん、新人保育士を大原櫻子さんが演じる。22日から、新宿ピカデリー、東劇ほかで公開。

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