〈反響に応えて〉「コロナで崩壊寸前の保育現場」にコメント多数 「保育士は誰が守ってくれるの?」厚労省と東京都に声を届けました
“3密”で高まる感染への不安「マスクもない」
国内の感染者が増える中、園での感染拡大や、電車通勤に不安を抱える保育士らの声が多数ありました。保育園は子どもとふれあうため、密集、密室、密接の「3密」がなかなか避けられません。マスクや消毒液などの不足を訴える声も目立ちます。
・いつ園児がかかるか、自分たちがかかるのか、知らないうちにうつしているかもしれないなどの恐怖におびえています。保育士を辞める決心がつきました。
・マスクも買えない中で、保育園は開園し続けろと…。消毒液もない。それでも子どもたちはスキンシップを求めてきます。
・国で定めた子どもの人数に対しての保育士の人数は、現場ではギリギリ。そして4月の進級新入は子どもたちが安定しておらず、手が足りない状況で、仕事が終わると皆ぐったりの状態です。そこへ、コロナの追い打ち。保育士たちの免疫力が下がった状態で、保育現場は3つの密。避けるどころか濃密です。
・低給料なのに緊急事態宣言が出ても命をかけて働くことに心が苦しくなります。子どもだけでなく私たち職員も毎日電車に乗り、保育園に行くことがとてもビクビクして怖いのです。
自分の子どもに留守番させて、働くジレンマ
コメントには、小中高校などの休校で子どもに自宅で留守番をさせながら働く保育士のジレンマもありました。東京都の調査では、子どものいる保育士は53%に上ります(2018年度東京都保育士実態調査)。緊急事態宣言が出た地域では、保育園を休園にするか、利用自粛を求めるかで自治体の判断が分かれていますが、「利用自粛」では効果が薄いという意見も見られました。
・わが子を学童と保育園に預けて仕事に来ています。他人の子どもを預かり、社会を支えるためです。今の職場では保育職員が不足していて朝夕の学童と保育園の送迎の時間休をもらう代わりに「休むな」と言われました。社会全体の子どもたちの命を守るのか、わが子の命を守るべきなのか。正直、矛盾を感じました。
・小学生のわが子は休校…なのに休ませてももらえない! 緊急受け入れで(わが子を)学校に危険をおかしてまで行かせて…そんなのおかしいよ。
・現場はもう崩壊寸前です。在宅(勤務)でも育休でも、協力してくれない家は毎日登園してきます。お役所はこの実態を知っていますか? 保育園が開いているから、仕事を休めないと悩んでいる保護者もいます。
・保育士の仕事が大好きでしたが、新型コロナウイルスの騒動で、初めて辞めたいと思いました。家庭保育をできる保護者の方々のご協力があまりにも少ないことに何より落胆させられ、これ以上過酷な状況で頑張る気力が保てません。
・緊急事態宣言を出すなら、保育園の開園時間の短縮、在宅なら園児は休みを強制、育休産休の利用者は強制的に休みにできるなどの対応も宣言していただきたいです。本当に保育士は疲弊しています。
低賃金と待遇に不満噴出「休めず、補償もない」
保育士の処遇や、社会的な評価の低さを嘆く声も多く寄せられました。長時間労働、残業手当が付かないなど働く環境が厳しい人も少なくありません。新型コロナ対応の中で、日頃の不満が噴出しています。
・「補償、補償」って、保育士にはなんにもない。手当もでない。でも仕事は山積みで人も足りない。自分の子どもを、祖父母に預けて働いたり、シフトで早番から遅番まで働いています。
・収入が減った人、子ども手当の上乗せ・・・。そちらばかりが待遇がよくて、休めない保育士への処遇がない。現在のちっぽけな処遇改善ではなく、手当を付けてほしい。
・それでも給料が倍になれば頑張る人は多いと思う。命を守る、人を育てる仕事なのに少なすぎる。
・20万円にも満たない給与と、「やってくれるのが当たり前」という態度。保育士という職業を社会的に認めて。
厚労省と東京都はどう受け止める? 訴えを届けました
寄せられたコメントからは、未曾有の状況の中、綱渡りの対応が続く保育現場の実態が分かります。感染が広がってからも、働く親やひとり親家庭などのため、「原則開所」を掲げていた国の担当者はこうした声をどう受け止めるのか、話を聞きました。また、4月7日に緊急事態宣言が発令された後、規模を縮小して開所するよう求めている東京都の担当者にも、そのためにどんな対応をしているのか聞きました。(4月13日に電話取材)
厚生労働省 保育課の担当者「一概に行政側から保育の提供をやめることはできません」
感染状況は、自治体や地域によって異なります。保育の実施主体である各市区町村がこうした感染状況もみて、実施の判断をしています。休園や開所時間を短縮した場合でも、原則開所時と同じように保育所への給付は行われます。
保育所は福祉施設なので、働く親やひとり親家庭などの子どもの居場所という側面があります。家庭の事情や子どもの状況はさまざまであり、一概に行政側から保育の提供をやめることはできません。あくまで自粛をお願いしています。
すでに現場では行っていただいていると思いますが、手洗いの仕方など、感染症予防についてのガイドライン(「保育所における感染症対策ガイドライン」)も活用し、予防の啓発に取り組んでいます。マスクや消毒液は、都道府県や市区町村が保育所で使うために購入した場合、経費を1施設あたり上限を50万円として、国がその自治体などに補助します。また、政府全体で社会福祉施設に優先して布マスクを職員1人に1枚ですが、配布を始めています。
学校と違い、保育所については、春休みなどの長期休暇もなく、1人で家にいることができない子どものために保育を行っており、子どもにとっては家の代わりとなります。厚生労働大臣の4月10日の発言(「保育所の開所のためにご尽力いただいている現場の皆さまや、登園の自粛などにご協力いただいている保護者の皆さまに改めて感謝を申し上げます」)にもあるように、厚労省職員はもちろん保育士の皆さんにお世話になっている方が多くおり、心より感謝申し上げます。
感染防止対策などについては、これからもいっそう支援は続けていきますが、どうかご理解をいただきたく思います。
東京都 保育支援課の木村総司課長「経済団体にも配慮をお願いしています」
東京都は、緊急事態宣言が出る前に市区町村宛てに、感染防止のため、仕事を休んで家にいることが可能な保護者は子どもの登園を控えるようお願いし、縮小して保育すること、ただし社会生活を維持するために必要な業種に就く親や保育が必要な方には保育を提供すること、感染防止対策をすることなどを通知しています。
また、都が購入した350万枚のマスクのうち、60万枚を保育所などの児童関連施設に配布しています。
保育所などの現場の負担軽減につながるとして、 子育て中の従業員が在宅勤務や休暇の取得ができるよう経済団体にも配慮をお願いしています。
専門家はこう見る 「保育士の処遇が浮き彫りになった。専門性が高い職能を評価し、育てる政策が必要」
保育士の労働環境に詳しい名城大の蓑輪明子准教授(女性労働論)の話
保育士は、社会を動かす最前線で働く親を支えているのに、マスクや消毒液もない過酷な状況で、混乱や不安が起きて当然です。
保育園の「利用自粛」のお願いでは、事業者側もあいまいな対応しかできず、親も仕事を休めない。政府が休業要請と補償を合わせて打ち出せば、事業者も子どもがいる親を休業させ、保育園に子どもを預けなくて済む親がもっと増えるでしょう。その上で、どうしても預けなくてはいけない限られた業種の子どもだけを保育すれば、子どもや保育士の感染リスクも減らせます。今、中途半端な状況に、保育現場が振り回され、保育士と保護者双方にしわ寄せがいっています。
保育士は専門性が高く、生活の基幹部分を支える重要な仕事を担っています。ですが、低賃金で、きちんと職能を評価されずに場当たり的に国や自治体が増やそうとしてきました。今回のような感染症の拡大や災害など緊急時に耐えうるだけの体力がなく、人手不足で、人材の育成も追いついていません。
現場だけでなく、国や自治体が緊急時に対応できる保育とは何かを考える必要があります。保育士1人がみる子どもの人数を定める配置基準も、平常時から保育を回すのにぎりぎりの状態です。これで、緊急時に子どもの命を守れるのか。今回、保育士の処遇や問題点が浮き彫りになり、「保育の質」を改めて問う時だと思います。保育士の職能を評価し、人材を育て、経験のある保育士を増やしていく政策が必要です。
コメント