国会にも「子育てしながら働く女性」の代表が必要。でも… 衆院選目前に立候補を辞退した神田沙織さんの思い

(2021年12月27日付 東京新聞朝刊)
20211227_神田沙織さん

インタビューに答える神田沙織さん=東京都中央区の日本橋三井タワーワークスタイリングで

 4年ぶりに実施された10月の総選挙。夫とともにコンサルティング会社を経営する神田沙織さん(36)は、子育てしながら働く女性の代表が国会にも必要だと立候補を決意した。政党公認が決まり、見ず知らずの選挙区で活動を始めるまではとんとん拍子。だが周囲が求める政治活動と家庭生活の両立にもがき苦しんだ末、新型コロナウイルス禍も影響して志半ばで断念することに。当時を振り返り「国会が一部の利益を代表する存在にならないためにも、多様な人が目指せる社会が理想」と語る。

過酷な子育て「声を上げれば変わる」

 神田さんが政治に関心を持ったのは、東京都内で暮らしていた2016年に長男を出産し、子育て環境の過酷さにぶつかったことがきっかけ。自営業が保育園探しに不利だと初めて知った。空き枠のある地域へ転居しても徒歩圏内の園には入れない。通園する電車の中では、通勤客から「邪魔だ」と怒鳴られた。

 「東京の子育てはこんなに孤独なんだ」。同じ悩みを持つ自営業の親らと給付金や社会保険料の仕組みを調べ、会社員と個人事業主では大きな収入差が出るとの試算結果を公表。厚生労働省に改善を申し入れた。すると、2019年度から個人事業主は産前産後の一定期間、国民年金保険料の支払いが免除された。

 公共交通機関に関するインターネット調査も行い、保護者の9割が利用時に危険を感じているとの結果を小池百合子都知事に提出。都は、都営地下鉄の一部車両で優先席周辺に子連れ歓迎のスペースを導入した。「私の体験は私だけの体験ではなかった。声を上げれば変わる」と実感。「政治家をなりわいにできれば」との思いが湧いた。

政治家が家族を犠牲にするのが当然?

 2019年秋に女性の政治家を養成する一般社団法人「パリテ・アカデミー」(東京)の集中講座に参加。他に複数の政治塾に通ううち、立憲民主党から福岡5区での出馬を打診された。夫や自らの両親も賛成。夫と長男は東京で生活することにした。夫の両親から「女性議員を増やすことは大切だけど、わざわざあなたがやらなくても」と言われても、決意は揺るがなかった。

 福岡で単身生活を始め、立候補に向け政治活動を始めた時に到来したのが、新型コロナウイルス感染拡大の「第1波」だ。

 有権者に顔と名前を覚えてもらわなければならないのに、マスク着用が必須となり、街頭活動を自粛せざるを得ない。一方で支援者からは、早朝から深夜までがむしゃらに地域を回ることを期待された。

 「手段を選んでいたら、勝てないよ」「家族全員でここに一緒に住んで、滅私奉公するべきだ」「親に育児を頼まないのか」―。

 子育てしながら働く女性であり、政治的なしがらみがないことが自分らしさだとばかり思っていたのに、家庭を犠牲にすることが当然のように言われ、「政治家になることは自分を捨てることなのか」とぼうぜんとなった。

「国民図鑑」ではない国会の顔触れ

 党の支援はあるものの、日々の活動を続けるため貯金を取り崩した。コロナ禍で夫の仕事も減った。緊急事態宣言が発令され、県をまたぐ移動の自粛要請が出ると、東京と福岡の往復は難しくなり、長男の保育園の休園も重なって、政治活動との両立は完全に破綻。党や支援者らへの申し訳なさで身を引き裂かれそうになりながら、「一身上の都合」で公認を辞退した。

 今になって思う。「国会議員はお金や仕事、家庭の心配をせず、政治に打ち込める人たちなんだな」と。自分は甘かったのかもしれない。だが「顔ぶれが(国民各層を反映した)『国民図鑑』になっていない。同じような人だらけ」。

 やはり、一部の権益の代表者だけに政治を任せてはおけない。「多様性のある国会にするには、もっと多くの人が政治家を目指さなければ。その中に私もいていいはずだ

表 神田さんが衆院選立候補を辞退するまでの経緯

神田沙織(かんだ・さおり)

 1985年、大分県佐伯市生まれ。日本女子大卒。2013年に結婚、2015年に夫とコンサルティング会社を起業。2016年に男児を出産。子育て世代向けのイベントや勉強会を運営する一般社団法人「母親アップデート」理事。岐阜県高山市在住。

国会を「おっさんデモクラシー」にしないためには? 被選挙権の年齢引き下げを議論すべき

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五十嵐暁郎・立教大名誉教授=本人提供

五十嵐暁郎(あきお)・立教大名誉教授(政治学)に聞く

 先の衆院選では女性議員が減り、当選者の平均年齢が上がった。国会に多様性がなく「おっさんデモクラシー」になった。特定業種の集まり、地域で影響力のある企業や組合などに支持されないと、小選挙区で勝てないのは問題だ。除外されがちな女性や若者が分け入っていくのは難しい。供託金も既得権益がある人しか払えないような高額で、民主主義的ではない。

 政治的な資源に恵まれた議員しかいなくなると、有権者が「どうせ既得権益の代表者ばかり」とあきらめ、投票しなくなる。別世界の人が選ばれ、議論している国会に、関心が湧くわけがない。

 若い世代に将来の税負担を付け回している現状を見れば、被選挙権の年齢引き下げを真剣に議論するべきだ。被選挙権は衆院が25歳、参院は30歳から。進学や就職など人生の方向性が決まる時期を過ぎている。立候補するには職を蹴らなければいけない。若者の代表を立てづらくしておいて、若者の政治への無関心を批判するのは、おかしい。

 与野党は候補者の選定が「しがらみ化」していないか自己点検し、選定過程を透明化するべきだ。普通の、政治の世界に染まっていない人が立候補できる環境をつくらなければいけない。旧来型の選挙運動を必ずしも強要されない比例代表の比重を増やすことも、必須だ。

 多様な背景を持った議員が増え、国会論議が充実すると、有権者も「自分が代表されている」と実感できる。今まで選挙に行かなかった人も行くようになる。投票率が上がれば政府も民意を無視できなくなり、空気が変わる。(談)

衆院議員になるのはどんな人? 多いのは「二世」や地方政界・議員秘書の出身者

 現在の衆院議員465人の血縁や出身分野をみると、「二世」らをはじめ、地方政界や議員秘書の出身者など、政治家につながりのある人々が多い。ほかに官庁や実業界(会社役員など)、マスコミ、法曹(弁護士など)、医師なども目立つ。

グラフ 衆院議員

 政治関係者や省庁の出身者、国家資格の肩書を持つ人が選挙で有利なのは、自らの知識や経験、人脈を生かす強みを有権者にアピールしやすい事情がある。

 今回の集計では、出身分野を「政治家系」「地方政界」「実業界」など8項目に分類。一人で複数の分野を経験して議員になるケースもある。分野別に当てはまる議員の数を出したため全分野の合計は465を超える。市民活動をするNPOや労働組合の幹部らは、「労組・団体役員」に入れた。(須藤英治、古田哲也)

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