「プレコンセプションケア」って知ってる? 東京都の講座や専門外来に行ってみた

 自治体や病院で、性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うよう促す「プレコンセプションケア」が広がっています。なぜプレコンセプションケアが必要なの? 具体的に何をすれば良いの? 取材・体験してみました。
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東京都の講座で講師を務める三戸麻子医師(左)と斉藤隆和医師

プレコンセプションケアって?

 プレコンセプションケアとは、男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うよう促すこと。コンセプションは英語で「受胎」「妊娠」の意味で、直訳すると「妊娠前のケア」となる。

 なぜプレコンセプションケアが必要なのか。国立成育医療研究センターの三戸麻子医師によると、妊娠前や妊娠中の痩せや肥満、出産の高年齢化の影響で、リスクの高い妊娠や、小さく産まれる低出生体重児が増加しているという。

 妊婦が痩せすぎの場合、早産や低出生体重児の出産につながりやすい。生まれた子どもが、糖尿病などの生活習慣病にかかるリスクも増える。肥満でも、不妊や妊娠合併症にかかるリスクが増える。他にも、妊娠前に高血圧や糖尿病などがあり、適切な治療を受けていないと、妊娠中に症状が悪化する危険があると警鐘を鳴らす。三戸医師は「妊娠前の健康状態が非常に重要になってくる。正しい情報を知り、健康でいることが、自分の選択肢を増やすことにつながる」と話す。

担当した妊婦が死産した経験から

 三戸医師にプレコンセプションケアへの思いを聞くと、以前、高血圧の妊婦を担当したが、死産になってしまった経験を話してくれた。女性は妊娠中に症状が悪化して血流が悪くなり、胎児に酸素や栄養が十分に行き渡らなかったという。「まさか血圧が妊娠に関係するなんて誰も教えてくれなかった」と女性は話した。

 その後その女性は薬を飲むなどして血圧をコントロールし、2年後には無事出産したという。三戸医師は「妊娠前の病気の管理がいかに大切か実感し、プレコンセプションケアを広げたいと思った」と振り返る。

具体的に何をしたら良いの?

 では、具体的に何をしたら良いのか? 東京都が開いているプレコンセプションケアの講座「TOKYOプレコンゼミ」を取材した。三戸医師と、同研究センター周産期・母性診療センター不妊診療科前診療部長の斉藤隆和医師が解説。赤ちゃんの神経系疾患のリスクを減らすには、葉酸が大事だと強調し「妊娠の3カ月前、遅くとも1カ月前くらいには食事に加えてサプリメントで葉酸を積極的にとってほしい」と話した。

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東京都の講座でプレコンセプションケアについて解説する三戸医師(左)と斉藤医師

 また、妊娠前のワクチン接種についても説明。妊娠中に風疹にかかると生まれてくる子どもに先天性風疹症候群や流産のリスクがあるとして、風疹のワクチン接種歴や抗体価を調べ、もし足りない場合はワクチン接種をするよう勧めた。他にも、痩せや肥満のリスク、栄養管理の重要性や妊娠の仕組み、妊娠前にした方が良い検査まで説明した。

都の講座では検査費の助成も

 1月17日に開かれた講座では参加希望者が定員を上回り、抽選となる盛況ぶりだった。オンラインも含めて約550人が参加。医師の説明後には「女性は葉酸のサプリメントを飲んだ方が良いとのことだが、男性で飲んだ方が良いサプリはあるか」などの質問が上がり、斉藤医師は「すぐにサプリメントを飲むよりは、生活習慣病などがあったら体調を整えること、ストレスを軽減すること、よく睡眠をとることを心がけた方が良い」とアドバイスした。

 世田谷区の30代女性は夫婦で参加し「妊娠を考えていたが、あまり知識がなく勉強したかった。不妊治療は敷居が高いし…。葉酸サプリなどの広告は見るが、不安だった。妊娠前から飲んだ方が良いと分かって良かった」と話した。都には「オンラインでも参加できるため質問しやすい」との声が届いているという。

 講座は都内在住の18~39歳の男女が対象で、月1回ほど無料で開いている。受講後はプレコンセプションケアの一貫として、都が精液一般検査や男性ホルモン検査、卵巣に卵子がどの程度残っているかを調べるAMH検査など対象の検査を助成する。対象は都内の約100の医療機関で、助成金額は、女性が3万円、男性が2万円まで。

専門外来にも行ってみた!

 三戸医師が所属する国立成育医療研究センター(世田谷区)は、2015年に日本で初めてプレコンセプションケア専門の外来を開設した。筆者も昨年7月、センターで検診とカウンセリング「プレコンチェック」を受けた。東京都の講座に来ていた女性と同様、健康管理のためにどのような準備をしたら良いか分からず、専門的な意見がほしかったからだ。

プレコン・チェックプランのカウンセリングの様子=国立成育医療研究センター提供

 基本的な検査(婦人科検診などは別)を受けるベーシックプランで料金は約4万円。あらかじめ3日分の食事を書き込んだものや、これまでの健康診断の結果、自分の母子手帳を持参。血液や血圧、尿などの検査を受けた。

 栄養士とのカウンセリングでは朝食をほとんど食べず、食事のタンパク質が少ないことを指摘された。「朝食のカロリーを気にしている」と話すと、「アイスなどの間食をやめればよいのでは」と言われた。

 三戸医師との面談では診断結果を受けたアドバイスや、プレコンの必要性を聞いた。検査結果では風疹や麻疹、ムンプス(おたふくかぜ)の抗体価が低いことが分かり、慌てて近所の病院でワクチンを打った。家族にも事情を説明し、風疹の検査を受けてもらった。風疹のワクチン接種後2カ月は原則、避妊することが推奨されているため、妊娠を考えている人は早めの検査をお勧めする。

 国立成育医療研究センターのホームページでは、プレコンセプションケアの説明や、具体的なポイントがわかる「プレコンノート」をダウンロードできる。

 東京都の講座や取り組みについては都のサイトで詳細を案内している。

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