Chim↑Pomエリイさんがつくる、子どもを排除しない美術館 回顧展に託児所を「展示」して伝えるメッセージ
美術館に、あえて遊び声や泣き声を
17年間の活動を振り返る回顧展「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」の会場。まず目に入るのは、「くらいんぐみゅーじあむ」の文字が揺れる楽しい雰囲気の託児スペースだ。メンバーの岡田将孝さんが描いた文字を、林靖高さんが着色、デザインした。子どもの居場所にありがちな甘ったるさはなく、開放感がある。
「入り口にあることで美術館の顔になる。たとえ子どもを預けなくても親が『私も行っていい場所なんだ、受け入れられてるんだ』と足を運びやすくなったらいいな」
エリイさんの狙いは「静謐(せいひつ)であるべきだ」とされる美術館にあえて、子どもたちの遊び声や泣き声を響き渡らせることだ。自身も出産前は子どもと触れ合う機会がなかったという。託児スペースは、エリイさんが子育てを始めて覚えた違和感や憤りが端緒となった。
子どもが社会に溶け込んでいない
子育ての壁となるバリアーは、エリイさんにとって最も身近な場所である美術館にもあった。子どもが少しでも騒いだり泣いたりすると、肩身が狭い。鑑賞の合間にちょっと授乳できたらいいのに。そもそも美術館に赤ちゃんや子どもがいる、ということが想定されていないと感じた。「子どもや子を育てる親が社会に溶け込んでいない」
森美術館にも同じ印象を受けた。六本木ヒルズ森タワーの最上層53階にあり、現代アートを世界に発信し続ける国内有数の美術館。だが、子連れの来場者が気軽に使える託児施設はない。
親も楽しんで生きられる社会に
「子育て中の人たちにとって、美術館がもっと自由にのびのびと過ごせて安心できる場所にしたい」と、回顧展の一プロジェクトとして、無料で利用できる託児所を作った。森美術館は「アーティストによる斬新で安全な託児所を美術館の中に開設することは新たな挑戦」と受け止める。子連れの来場者も多いという。
東日本大震災直後、渋谷駅の通路に掲げられた故岡本太郎さんの壁画「明日の神話」の余白部分に、福島第一原発事故の絵を張り付けるなど、賛否を巻き起こす行動で知られるChim↑Pom。「今まで『作品で伝えたいことはありますか』と聞かれても、『別にないです』みたいな感じだった」とエリイさん。「でも、今回ははっきり伝えたいことがある。子どもがもっと自然な形で存在できて、親も一人の人間として楽しんで生きられる社会をつくりたい」
3月末までクラウドファンディング
Chim↑Pomは、保育士の人件費など託児所の運営費用をクラウドファンディングで3月いっぱい募っている。現在は金―日曜の週3日間の開所だが、達成金額次第で開所できる日数が決まる。返礼として、チンポムがデザインしたオリジナル塗り絵や、その塗り絵作品のコンテストへの参加権などがある。利用は要予約。詳しくは森美術館の公式サイトで。
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