指揮者 佐々木新平さん 物心ついたころから家には音楽 3人兄弟の次男ならではの「察知能力」が仕事に役立って

熊崎 未奈 (2025年6月1日付 東京新聞朝刊)

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佐々木新平さん(坂本亜由理撮影)

カット・家族のこと話そう

各界で活躍する著名人が家族との思い出深いエピーソードを語るコーナーです

母の弾く「虹のかなたに」

 物心ついた頃から、家の中には音楽がありました。母は結婚するまで電子オルガンの教室で先生をしていたそうです。夕食後、お風呂を沸かす間に、映画音楽やイージーリスニング音楽を弾いてくれました。父もギターでポップスとかを弾いていましたね。

 母の弾く曲で私が大好きだったのが二つあって。一つは、映画「オズの魔法使い」の劇中歌「虹のかなたに」。もう一つが、ポール・モーリアの「涙のトッカータ」です。小さい頃は曲名を知らなかったのですが、ずっと好きだった記憶はあって。今年、モーリア生誕100周年公演の指揮をすることになり、改めて知ることになりました。

 私は小学1年から電子オルガンを始めました。外遊びが好きで、練習はちょこっとするくらいでしたが。中学では吹奏楽部でトロンボーンを始め、高校でも続けました。

 将来の夢は社会科の先生だったんですが、高校2年の頃、ふと音楽の先生になりたいと思ったんです。そこから、ピアノの練習や音楽の勉強を始めました。親には反対されるかと思ったんですが、応援してくれましたね。それまで母に教えてもらったことはありませんでしたが、受験が決まってからはコード(和音)のこととかいろいろと聞きました。高校教員だった父は、音楽の受験勉強を教えてくれる同僚を紹介してくれました。

 大学に進み、音楽の教員を目指しましたが、卒業する頃は就職氷河期で採用枠がなかなかありませんでした。もっと真剣に音楽に向き合う時間を取りたいと、音大で3年間指揮を学ぶカリキュラムに入学し、自分で学費を稼ぎながら学びました。28歳のとき、プロオーケストラの指揮研究員に採用され、指揮者への道を歩むことができました。

 両親は反対せず、あまり心配もしていなかったそうです。今は地元の秋田県で公演があれば、必ず来てくれます。

一歩引いて、変化に気付く

 両親に似たなと思うのは、気遣いができるところでしょうか。特に母はあっさりとしていて、一歩引いて見守っているタイプ。指揮者としてのコミュニケーションにも通じているのかなと思います。

 指揮者は大勢のメンバーを見て、音や表情から変化に気付く必要があります。口に出して伝えることもあるし、しぐさや表情でサポートすることもある。そういうことは得意かなと思います。私は3兄弟の次男で、佐々木家ではけんかの仲裁役もしました。家族のバランスを取るような立ち位置だったので、そこで培った「察知能力」も生きているかもしれません。

 指揮者の道に進んだのは、家の中に音楽があったからこそ。今は妻と小3の息子と暮らしていますが、息子には、将来やりたいことにつながるような種をたくさんまいてあげたいと思っています。

佐々木新平(ささき・しんぺい)

 1982年、秋田市出身。東京学芸大を経て桐朋学園大で指揮を専攻。2015年、ブザンソン国際指揮者コンクール(フランス)で本選選出を果たす。国内主要楽団で客演し、ヤマハ吹奏楽団常任指揮者などを歴任。7月から作曲家ポール・モーリア生誕100周年記念コンサートを指揮する。31日と8月1日に東京、17日に大阪公演。

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