〈古泉智浩の里親映画の世界〉vol.26『Bogus』急には難しくても、家族になれる!感動のエンディング

古泉智浩「里親映画の世界」

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※今回は古泉さんのイラストで紹介します

vol.26『Bogus』(1997年/アメリカ/7歳/男/後見人)

採点表

 アマゾンプライムビデオをあれこれ手繰っていると、『Bogus』という映画がありました。シングルマザーのお母さんが亡くなって、親友が子どもを預かることになるという簡単なストーリー紹介がありました。まさしく里親映画に違いないと思い、見てみました。というのも、ここ最近里親映画で紹介しようと思って見た映画があまり共感できなかったり、映画自体が面白くなかったりと、作品選びが難航しています。『Bogus』はVHSが廃盤状態で、DVD化すらされていないマイナー作品でしたが、とても面白かったです。日本公開時のタイトルは『僕のボーガス』でしたが、アマゾンプライムビデオでは原題の『Bogus』となっています。現在、プライム会員には無料配信中なので、是非ご覧いただきたいです。

◇「Bogus」予告編(英語版)

 サーカス団員のロレイン(ナンシー・トラヴィス)は7歳の一人息子、アルバート(ハーレイ・ジョエル・オスメント)を残して交通事故でなくなります。その時、サーカス団はラスベガスでの公演中でした。お母さんの遺言で親友のハリエット(ウーピー・ゴールドバーグ)がアルバートを預かることになりました。ハリエットはニューアークで会社を経営しており、アルバートは一人でニューアークへ旅立ちます。

 ハリエットとロレインはお互い孤児で、同じ養護施設で育ちました。ハリエットは独身で一人暮らし、会社を経営し、結婚も子どもも全くの想定外です。親になる気もないのですが、そうは言っても7歳の子どもを見捨てるわけに行かず、部屋と食事を与え、学校に通わせるなど面倒を見ます。ところが、アルバートは明るいけどガサツな黒人のおばさんと暮らすことに戸惑い、心を閉ざします。きれいなママが、急におっかない顔のおばさんになったとしたら、相当な戸惑いは否めません。

 実際、僕は子どもがとっても懐いてくれているので、すっごくかわいがることができておりますが、これがアルバートのように心を閉ざし、口をきいてくれず、出した食事に文句ばかり言っていたら果たしてどうでしょう。うちの養子の長男は6歳で、アルバートと同様に、食事にはよく文句を言います。保育園ではずっとお弁当に白ご飯を持参していたのですが、お友達は健康ご飯や炊き込みご飯を持ってきていると言うので、うちでも十五穀米のご飯にしました。それを朝食に出したところ、白ご飯がいいと言って怒りだし、なんでダメなのか聞いてもずっと「だから言ったでしょ」と繰り返すばかりで、仕舞いには涙をポロポロとこぼし、泣き叫んでいました。朝食は食べずにそのまま保育園に行きましたが、頭に来たのでお弁当はそのまま十五穀米を入れてやりました。すると、何も文句を言わずに全部食べていました。よっぽどお腹が空いたのでしょうか。考えてみると、アルバートよりひどい。

 ただ、うちの長男は食事にひどく怒りだすことはあるのですが、他で十分懐いてくれて、一緒に遊んで楽しく過ごしています。そんな楽しみや喜びがなく、不貞腐れた状態のまま家にいたり、学校に送り迎えするとなると、かわいがることができるか分かりません。もし自分がハリエットの立場ならと思うと、優しいパパを演じることができるのか、全く自信がありません。

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 アルバートにはラスベガスからニューアークに向かう飛行機内でもらったノートに書いた顔が実体化したおじさんの友達がいます。彼はボーガス(ジェラール・ドパルデュー)と名乗ります。ボーガスは、アルバート以外誰にも見えず、ボーガスとの会話は傍から見るとひとり言のようで、ハリエットは不気味に思います。ボーガスは頻繁にアルバートの前に現れ、話し相手となり孤独を癒やします。

 学校の授業で、ボーガス(Bogus)という単語は「偽物」という意味であると先生に教えられアルバートは憤慨します。

 一緒に暮らし始めてしばらくして、アルバートからハリエットに歩み寄ろうとして、得意の手品を披露します。ところが、その日はハリエットは自宅でも伝票の計算をしなければならず、アルバートを冷たくあしらいます。なにしろハリエットの会社は零細企業なのでなんでも自分でやらなければならないのです。悲しそうにうつむき、リビングを去るアルバートの背中を見つめてハリエットは「しまった」と思います。

 アルバートは新聞広告で、アトランティックシティにサーカス団の仲間が公演に来ていることを知り、夜、家出をして長距離バスで駆け付けます。しかしそこにアルバートの居場所はありません。サーカス団の仲間に催眠術を掛けられて眠り、夢を見ます。ラスベガスのネオンが輝き、サーカス団の仲間たちの輪の中で、アルバートが手品を披露し拍手喝さいを浴びます。すると、お母さんが天空から現れてアルバートを抱きしめます。しかし、それはほんの一時の夢で、本当に迎えに現れたのはハリエットでした。

 そうして帰宅するとなんとハリエットの前にもボーガスが現れ、ハリエットは悲鳴を上げます。ボーガスの導きで、ハリエットとアルバートは心を通わせることができ、家族になろうと誓います。母親になろうなんて露ほども思っていなかった人が、急に母親になることは難しくても、家族になることはできる、そんなことを思わせてくれる素晴らしいエンディングでした。

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 アルバート役の子どもがかわいらしくも憎らしい、本当に子どものいい面と厄介な面を見事に自然に演じていて、絵空事でない感じがします。また、ハリエットもガサツながらも温かい人柄があふれ出していて彼女なりに懸命に生きている様子が伝わります。ボーガスも実在しない存在なのにとても楽しい人柄で、出てくるたびに楽しくなります。

 エンディング近くまで、ハリエットは面倒見の悪い人や無責任な人ではないので、アルバートの養育を懸命にしようとしている感じはしていても、母親として彼を愛そうとしているのかどうかが不明なままで、どうなってしまうのかとハラハラしました。また、時々イマジナリーフレンドが悪人だったり、悪魔だったりする作品もあるので、「ボーガスがもしそうだったら…」とも思ってドキドキしていました。しかしそんなことは全くなくて、アルバートとハリエットがお互いを思い、そしてボーガスが2人を温かく導く素晴らしいエンディングでした。子どもがいい子でイージーモードの育児とは全く逆の悪夢のようでもあり、だからこそ心が通った時の感動がひとしおでした。

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

 〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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