パパの家庭進出が加速する今なぜ「ママ応援」カフェ? 世田谷区で保育士対応の店オープン 家事育児の視点から男女平等を考える

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ママ応援カフェを始めた岡野早苗さん(左)。ワンオペ育児で、夫に「子どもが寝るまで帰ってこないで」と言っていたそう

 育児する男性が増えつつある中、あえて「ママのための憩いの場」をコンセプトにしたカフェが、世田谷区にオープンした。保育士が対応する日もあり、子どもが騒いでも大丈夫。ご飯の作り置きやシッターサービスなどを手掛ける家事代行「住まいるCooK」(新宿区)代表の岡野早苗さん(52)が始めた。なぜ今「ママのため」なのかー。

共働きでも家事は母親に偏りがち

 最近は、公園で子連れのパパをよく見かけるし、保育園の送り迎えを担当するパパも少なくない。共働き世帯が7割に達していることもあり、父親の家庭進出へ、世の中は変わりつつあると感じる。それなのに、なぜ今「ママのため」と強調するのだろう。取材中、素朴な疑問を岡野さんにぶつけると、こんな答えが返ってきた。

 「子どもを公園に連れて行ってくれるパパは増えたと思う。でも、その間、家事は誰がやっているのかっていうと、ママなんですよね」

 確かに、こんな総務省データがある。6歳未満の子どもがいる共働き世帯の家事時間について。夫の家事時間は、週全体の平均で2016年は1時間24分、2021年は1時間55分と、5年で30分増えた。ただ、妻の負担が減ったかというと、6時間10分(2016年)から6時間33分(2021年)と、約25分増えている。

グラフ 共働き世帯の夫婦の家事関連時間

 「家事代行の会社を運営していて思うんです。家中をピカピカにしても、お客さまが帰ってきて洗面所で手を洗い、キッチンでご飯を作って…すぐに元通り。家事に終わりはなくて、日々がんばって家事をしている人はチーンってむなしくなると思う。やっぱり、まだまだ母親が休める場所が必要なんです」

夫への頼み方「今でも分からない」

 保育士として、このカフェで働くベビーシッターのかのうなおこさん(37)も、共働きで家事と育児を担ってきた母親の一人だ。「いつも、誰かもう一人大人がいてほしいとずっと思ってきた」。かのうさんは、平日夜も週末も、仕事で自宅にいないことが多い夫に、「家事育児を頼むことができなかった」。次女は早産で帝王切開だったため、産後の回復が遅く、家事育児を支援する「産後ドゥーラ」を利用。ご飯を作ってもらうなど「人を頼るという経験は初めてだった」。

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子どもを見守る保育士のかのうなおこさん。子どもたちは、このスペースでランチを楽しんだ

 「ワンオペママに、ゆっくり食事を楽しんでもらいたい」という岡野さんの思いに共感し、日曜と祝日に子ども2人を連れてカフェに入る。

 家庭では、「2人目が生まれてから余裕がなくなり、少しずつ夫に頼めるようになってきた」。それでも「頼み方が分からなくてやっぱり苦手。今でも練習中です」と苦笑する。

 「頼むのは申し訳ないと思ってしまう」というかのうさんの話を聞き、筆者は「かのうさんだって仕事をしているのに…」と、がくぜんとしてしまった。でも、夫に気を使い、「自分がやらなきゃ」と家事育児を担う母親は多いのかもしれない。

普段、プリンはあまり食べないという子もおいしそうにほおばった

「男が稼ぎ、女がケア労働」の性規範 

 なぜ、共働きでも母親に負担が偏るのかー。「ワンオペ育児」の著書がある東京大大学院の藤田結子准教授は、女性が育児休業を取って働き続けることが一般的になってきた一方で、「男性が稼ぎ、女性が家族をケアするというモデルが男女ともに大きく揺らぐに至っていない」と指摘する。

 女性は「丁寧な子育てをするべきだ」という〝母親規範〟にとらわれがちで、仕事の前も後も家事育児をがんばろうとする。男性の場合は、「男の方が稼ぐ」「男なら出世する」という〝仕事規範〟が、男性を仕事に向かわせるように作用している。

 そのため、男性にとって、育児に関わるために重要なことは「仕事時間を減らして子どもの世話をしても、出世レースから外れない」という将来の希望が持てる職場かどうか。少なくとも「飛ばされない」という安心感が必要という。

 また、女性の方が保育士や介護士などのケア労働に就くことが多く、低賃金のまま放置されていることも要因の一つに挙げる。妻の収入が高ければ、夫も家庭をサポートするというデータもあることから、男女の収入格差も、女性をワンオペ育児に向かわせているとみる。

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野菜が苦手な子もペロッと食べきっていた

負担を「平等にしたい」と伝えて 

 夫婦で家事と育児をシェアするためには、「『平等にしたい』とパートナーに意思表示し、きちんと話し合うことが大切です」と藤田さん。母親の方が「自分でやった方が早い」「けんかになるくらいなら」と、分担せずに抱え込むことが多い。それでは「ずっと我慢し続けることになり、本当にそれでよいのか考えてみてほしい」。保育園の送りはパパ、迎えはママという家庭は多いが、迎えの方が夕食の準備から食事介助、入浴、寝かしつけまでセットなので「育児しているとしても、平等とは言えないです」。

 ただ、どれだけ話し合っても、家事育児をやろうとしない男性は一定数いるという。そういう場合は夫がお金を出し、家事をアウトソースすることも一つの手段だ。

 「夫を褒めて伸ばそう」というアドバイスもメディアで見かけるが、「おすすめしません。おだててやってもらうのは、感情労働です。夫の『やってあげる』感が育ってしまい、責任を持って取り組むことにはつながりません」。

 藤田さんは、「家事や育児は、暮らしを整えるというケア労働で、本来、価値が高いもの。企業は、社員が家事育児と向き合う時間をきちんと確保させるべきです。ぎりぎりまで仕事をさせようとする社会が変わる必要がある。家事は、本当にミニマムにする必要があるのでしょうか、女性に押しつけたままでいいのでしょうか」と問いかける。

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大人たちは、カフェで談笑しながらゆっくり食事を味わった

体に優しい食事で健康もサポート

 5月中旬の日曜日、岡野さんの「住まいるCooKカフェ」をのぞいてみた。京王線明大駅前から歩いて2分。ビルの2階だが、階段下の看板には「ベビーカーおむかえに行きまーす!」とあり、子育てを応援したい気持ちが伝わってくる。

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住まいるCooKカフェの階段下に置かれた看板

 「おともだち、来たよ~」

 カフェに母親と4歳の女の子が訪れると、保育士スタッフ・かのうさんの長女なこちゃん(6)が、女の子をおもちゃスペースに誘った。妹そらちゃん(1歳8カ月)と3人で、お絵描きボードやマグネットブロックで遊び始めた。

 この日訪れたのは4組の親子で、子ども5人、父母6人。子どもたちが、ミニテーブルを並べたおもちゃスペースでご飯を食べる間、大人は椅子席で談笑しながら食事を楽しんだ。途中、泣き出す子もいたが、保護者が「おぉ、どうした~」と声を掛けながらも、食事を続ける様子はカフェのコンセプトさながらだった。

 メニューは、千葉県から週ごとに届いたもので作るので、何が食べられるかは当日のお楽しみ。この日は、甘酒キャロットや大根のカレーこうじ和えなど、野菜やこうじをふんだんに使った13品が並んだ。新潟から取り寄せた玄米を4日間熟成させた発芽酵素玄米は、栄養価が高く消化もいいそう。保育園の調理員やカフェ運営の経験がある調理スタッフ・くみさんが手掛ける。

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疲れた体をいたわる野菜たっぷりのメニュー

子どもと一緒に料理、食べる喜びを

 岡野さんは、調理師の資格を生かして働いていた母親から食の大切さを教わった。春の七草やツクシなど、摘んできた季節の野草が食卓に並ぶ。「台所に立つ母の横はいつも、私のおしゃべり位置でした」。自身の子育てでも、野菜嫌いな長女や食べ物に敏感な長男と、プランターで一緒に野菜を育てたり、畑へ収穫体験に行ったり。自分で採った野菜は格別だからか、いつしか好き嫌いはなくなった。

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5月、夏野菜の苗に興味津々だった子どもたち(住まいるCooK提供)

 そんな経験から、カフェでは食育にも取り組んでいる。下北沢の畑で野菜の苗植えから、水やり、収穫、調理まで体験できる「食育×知育プロジェクト」だ。5月~8月の第1期は、3~5歳の12人が参加している。5回コースで、毎回カフェでの料理体験付き。対象は年少から小学3年生までで、第2期は秋ごろを予定する。

 カフェの営業時間は、毎週水曜・日曜・祝日の午前11時~午後9時。保育士が入る親子ランチは日曜と祝日。ランチとディナーともに限定10食で、税抜き2000円。団体貸し切りの日もあるので、スケジュールは住まいるCooKのホームページで要確認。食事の予約はLINEから受け付けている。

識者 東京大学大学院准教授 藤田結子

写真1971年、東京都生まれ。米国コロンビア大学大学院で修士号(社会学)、英国ロンドン大学大学院ゴールドスミス校で博士号(コミュニケーション)を取得。明治大学商学部専任教授等を経て2023年に東京大学大学院情報学環に着任。専門は社会学。メディアと国際移動、人種・ジェンダー、文化生産、若者、ケア労働などをテーマにフィールド調査をしている。著書「ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常」(毎日新聞出版、2017)、「働く母親と階層化」 (共著、勁草書房、2022)ほか多数。

筆者 東京すくすく編集長 浅野有紀

写真 東京すくすく編集長 浅野有紀

1988年、岐阜県生まれ。2013年中日新聞社入社。滋賀、愛知、埼玉の支局を経て、23年から中日新聞東京本社(東京新聞)東京すくすく部。ウェブメディア「東京すくすく」の編集長を務める。子どもが子どもらしく生きられる社会のために、虐待や孤育てを防ぐ取り組みなどを取材。長女は4歳で一人っ子ですが、ワンオペは大変。「家事育児をがんばりすぎないで、誰かを頼ってほしい」と願う。

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  • なおちゅん says:

    私も行きましたが、とても居心地が良くて温かくて、ホッとするような素敵なカフェ✨メニューは栄養満点💯で、偏食の息子が完食する姿に感動しました🥹

    また、現代の子育てをクローズアップしてくれた、素晴らしい記事に共感!!

    子連れで罪悪感なく、お母さんがゆっくり食事をしながらお酒も楽しめる…そんな素敵なカフェを作ってくれた岡野さんに感謝✨保育士がいてくれる安心感は抜群です!皆さまにもおススメだし、私もまた絶対に行きたいです!

    なおちゅん 女性 40代

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