<記者の視点>阿古真理さん著「家事は大変って気づきましたか?」 広がるシェアの意識 でも、会社で「洗脳されてしまう」
男性も、家事を論じる土俵に上がってきた
「家事は大変って気づきましたか?」(亜紀書房)という本をタイトルに引かれて読んだ。生活史研究家の阿古真理さんが、社会事象や歴史などに基づき、特に子育て期の男女のカップルの暮らしと家事を考察していて興味深い。
コロナ禍で性暴力や女性の貧困など性差別の問題が注目される今、家事のあり方を見直す動きも進行しているという。育休後の復職も進み、たとえば家事労働を金額に換えて見せた2016年のテレビドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の頃を機に、家事を論じる土俵に女性だけでなく男性も上がってきたとする。
著書では「男性中心の企業システム」が性差別社会の変化を阻むと指摘している阿古さん。話を伺ってみると「でも最近、男性が優位に立っているという考え方自体が、もしかしたらまずいかもしれないと思うようになってきたんです」と意外な言葉が返ってきた。どういうことだろう。
男性拘束社会の日本 家事時間は妻の2割
「確かに男性は優遇されて働きやすい環境ではあるが、しばられているとも言える。男性拘束社会なんです」
データを見てみよう。OECDの調査(2020年)では、33カ国中、有償の労働時間は日本の男性が2番目に長い。一方、家事や家族のケアなど無償労働は日本で女性が男性の5.5倍と、平均の3.17倍を引き離す。
内閣府男女共同参画局がまとめた「男女共同参画白書」(2020年版)によれば、妻と夫のいる家庭では家事、育児、介護に充てる時間が、共働き世帯は妻370分であるのに対し、夫は84分と妻の2割程度。専業主婦世帯では妻が565分に対し夫75分と、約7倍の開きがある。
この差は何だろう。
家事を経験することで見える世界がある
阿古さんによれば、日本でも変化の兆しはある。1990年代に中学高校で男女ともに家庭科を学ぶようになり、この10年ほどはインターネットの普及で「シェアする」という対等な感覚が浸透、メディアでも料理をする男性が普通に登場するようになって、家事育児をやって当たり前という男性や、一人暮らしでも家事が好きな人、夫が家事を多くする家庭は増えている。
「でも会社はあまり変わっていないので、洗脳されてしまう」。長時間労働で奪われるのは暮らしだ。2019年には育休取得後に不当な配置転換などハラスメントを受けたとして、男性会社員が勤務先を相手どり提訴した。
「仕事は生活を支え、家事は命を支える。家事を経験することで仕事では分からない世界も見える。自分が生きやすくなるためにも家事は男性もやった方がいいし、女性は完璧にやろうと頑張り過ぎない方がいい」と阿古さん。
経済思想家の斎藤幸平さんは「身近なところで議論するのが民主主義の第一歩」と語った(本紙1日朝刊)。気付いたことから始めてみよう、あきらめずに。
なるほど!
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うちの夫も家庭科男女共修世代ですが、やはり会社に拘束されていると家事をする余裕がないようです。というのも、郊外に引っ越したと同時に会社を辞め自営業になった途端、家事も育児も進んでやってくれるようになりました。嫌だから家事・育児をやっていなかったのではなく、会社に拘束されることのストレスで余裕がなかったのだなと、とても実感しています。自営業になり、将来への経済的な不安はありますが、家族の時間も増え今はとてもバランスがとれているなと感じます。