是枝監督が「ベイビー・ブローカー」に込めた思い 親に捨てられ、生まれてきて良かったと思えない子どもたちへ
児童養護施設を取材して
「親に捨てられた子どもが、生まれてきて良かったかどうかの確信が持てずに大人になっていくという声を聞き、その子たちに掛けてあげる言葉はないか、と考えた。この映画が答えになっているかどうか分からないが、そのことを考える映画にはしたかった」
構想は、赤ちゃんの取り違えを扱った「そして父になる」(2013年)のころからあった。赤ちゃんポストは日本より韓国の方が受け入れ数が多く、児童養護施設などで取材を重ねる中で、先の思いを抱くようになったという。海外の映画祭で交流があったソンらの出演を想定し物語をつくったが、カンヌの最高賞、パルムドールを受賞した「万引き家族」(2018年)の撮影などを挟み、2020年に本格始動した。
普遍的な「家族の物語」
犯罪でつながる家族を扱った「万引き家族」、育児放棄事件をモチーフに柳楽優弥がカンヌで男優賞を受賞した「誰も知らない」(2004年)でも描かれた、境遇に恵まれない子どもたちへの思いは不変だ。「たぶん日本では書かない。自分なりに考えて、それを言うしかないと思った」と語った、子どもが生まれたことへの感謝を表す真っすぐなせりふなど、過去の作品にはない形で映し出される。受賞により是枝流の家族の物語は海外製作でも普遍的なことを証明した。
今作で伝えたい思いを尋ねると、「大原則として、誰かを元気づけたり勇気づけたりするために撮っていない。ただ、誰かの顔を浮かべながら撮ることはいつもやっている。今回でいうと、あの(韓国の)養護施設出身の子」との答え。ドキュメンタリー出身の監督らしい取材対象への真摯な思いが伝わってきた。
「ベイビー・ブローカー」は東京・TOHOシネマズ日比谷などで上映予定。
「ベイビー・ブローカー」あらすじ
クリーニング店を営むサンヒョン(ソン)は借金苦で、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)と、預けられた赤ちゃんを連れ去って売る裏稼業をしていた。ある日、連れ去った赤ちゃんの母親が現れ、成り行きで3人は養父母探しの旅に出る。彼らをマークしていた刑事スジン(ペ・ドゥナ)らは現行犯逮捕しようと後を追う。
韓国との格差に危機感「日本の映画業界も働き方改革を」
是枝監督の海外映画製作は日仏合作の「真実」(2019年)に次いで2作目。本作はロードムービーのため、各地で新型コロナウイルスの感染対策に神経を使ったが、撮影日程やスタッフの数に余裕があったため撮影は快適だったという。「韓国は働き方改革が終わっていた。日本でも環境改善できるように働き掛けをしたい」。現場の格差に危機感を持ったと明かす。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい