学校再開が子どもを追い詰める危険性 カリキュラム優先で「地獄の夏」にしないため、大人が気をつけたいこと

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、約3カ月に及んだ休校措置が終わり、学校の再開が見えてきました。ようやく、とホッとする一方で、生活がまた変化することに不安を感じている家庭もあるのではないでしょうか。小児科医で「チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)」所長の榊原洋一さんは「子どもには大人にはない柔軟性がある。信じて、温かい目で見守って」とアドバイスします。榊原さんに今、親が気を付けるべきことを聞きました。
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「CHILD RESEARCH NET」所長の榊原洋一さん

「大目に見る」をもう少し続けましょう

―学校再開となると、生活リズムの立て直しや、低下した体力をどう取り戻すかが心配になります。

 だらけがちになった生活を元のペースに戻すことを焦らず、少し時間がかかるととらえてほしいと思います。これだけ長い休みだったのですから、子どもたちもすぐには適応できないこともあります。特に小学校低学年の子は、また入学時くらい手が掛かることもあるかもしれません。休校や外出自粛の中、例えばゲーム時間が長くても少し大目に見ていてあげたというのであれば、その姿勢をもう少し続けてほしいなと思います。

―子どもが怠けているのを見ると、「このままだったらどうしよう」「後々心配」と思ってしまいます。

 子どもはだれるのもあっという間ですが、学校に行くという環境になってキッチリしなくてはならなくなれば、徐々にそれに応じていくものです。大人と子どもとで大きく違うのは、子どもには時間がたっぷりあるということ。乱れてしまった習慣も、いくらでも回復できる、直していける時間があるんだととらえましょう。

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子どもたちは数カ月ぶりに学校に通うことになる

運動不足は体力が戻るので心配無用です

―体力も相当落ちているような気がします。

 休校中も家の中でもできる体操をしなさい、などと口うるさく言われてきた子どももいるかもしれませんね。でも、子どもの体力は環境が変わればまた元に戻るので心配いりません。中高年の方が深刻ですね(笑)。

 子どもの体力が落ちた落ちたと言われていますが、例えばオリンピックでマラソンが注目された直後には持久走のレベルが上がっていたり、サッカーの世界大会の後は球技のスキルが上がったりということが子どもたちにはあります。子どもは環境に影響される部分がとても大きいのです。 

学習の「詰め込み」は学校嫌いを増やす

―休校が長引いたことで、遅れた学習カリキュラムを取り戻すために、再開後の学校はぎゅうぎゅう詰めになるのではと言われています。親子ともそのペースについていけるのか不安です。

 おそらく、現場の先生たちはまじめですから、なんとかキャッチアップしようとして必死に詰め込むでしょう。夏休みの短縮をすでに発表している自治体もあって、今年の夏は子どもたちにとっては地獄の夏になるかもしれません。

 文部科学省も本年度の内容は次年度に持ち越しても良いと通知していますが、ゆるやかな対応をしていかなければ、子どもの身体的、心理的な負担は相当大きなものになり、かえって学校嫌いを増やす危険性があると心配しています。

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休校中、一人での学習に苦労した子どもも多そうだ

親も追い込まれると、親子の関係性が…

 また、特に小学校低学年にとって学校は「学び方を学ぶ」「自主的に学ぶことを身につける」ということがとても大事なのに、とにかく授業をこなすために受け身にならざるを得なくなるのも、目指してきた教育のあり方に逆行すると思います。

 学校再開の目的が、教育の進行だけになってくると、子ども自身だけでなく、親も追い込まれる恐れがあります。家庭で取り組む課題が増え、いつもなら先生が指導していたことを家庭の中で親が言わなくてはならない。そうなると、どうしても親子の関係性が悪くなるなど、家庭内の葛藤は高まります。このことは真剣に考えなくてはならない問題です。

「大人」優先で子どもにストレス

―親はどう対応したらいいのでしょう。

 家庭の判断で「できない」とスルーするのは1つの手ですが、なかなかそうできる家庭は少ないと思います。親の中にもとにかくカリキュラムを終えてほしいと考える人もいたり、いろんな考えがあると思いますが、こういうときこそPTAを通じてなど、複数の親から学校に意見を伝えてもいいのでは。災害などでしばらく学校に行けなくなり、その地域の子が他の地域の子に比べて学習が遅れる、ということもありますが、今回はある意味で日本中、もっといえば世界中の子どもたちが同じような影響を受けています。そういう大所高所に立った視点を持つことも必要かもしれません。

図解 学校再開で保護者が心掛けたいポイント

―これまでの生活でたまったストレスによる子どもたちの心も心配です。

 今回のコロナ危機のようなことがあると、社会がどう対応するかを決めるのはどうしても大人です。仕事のこと、経済のこと、まず大人の生活のことを心配し、子どものことは後回しになりがちです。社会全体の感染拡大を防ぐという目的で始まった休校も、子どもからの感染は少ないということも指摘されている中で、判断の基準の主軸は「大人社会への影響」だったように感じています。

 ですが、それによって子どもの生活圏はむちゃくちゃになり、その上慣れないオンライン授業や大量の課題に家で一人で取り組まなくてはならないなど、子どもたちはこの間相当のストレスをためています。だからこそ今は、焦って進めようとせず、待ってあげること、必ずまた元に戻っていくと信じてあげることを大切にしていってほしいと思います。

榊原洋一(さかきはら・よういち)

医学博士。「子どもは未来である」という理念を掲げ学際的、国際的な活動を推進する、インターネット上の「子ども学」研究所「チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)」所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学、特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞。2男1女の父。主な著書に「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解 よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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  • 匿名 says:

    勉強の詰め込みも心配なのですが、1年生の息子が7月からは連絡帳や宿題カードを自分で書くように。我が子はたまたま、未就学のころから読み書きはそこそこできましたが、ついていけないお子さんがいるのではないか心配です。

    また、学校の支度を自分でする習慣がなかなかつきません。親としても、通常の支度のフォローに加え朝晩の検温や健康状態の記入などやることが多く、共働きの身としては、しんどいです。

      
  • 匿名 says:

    自粛中、小学校か大量のプリントがでました。理科や社会はやったこともない新学年のです。答えもついていなくて、一緒に教科書を見ながらやらなきゃ解らないので、親も時間取られるし家事もしなきゃで、ものすごく負担かかって精神的に辛かったです。
    なによりかわいそうなのが末っ子の幼児。
    親が小学生の姉妹につきっきりなのでほとんどかまってあげられなかったです。

      
  • 匿名 says:

    「カリキュラム優先で」という表現は、誤解を招くし教師を追い詰める。オンライン学習の環境がない公立学校の教師は、いかに遅れを取り戻し、今冬の第二波の影響を少なくするために今後の授業を工夫しながらも、感染症対策の清掃や消毒までしながら駆け回っている。
    休校明けのこどもへの配慮は当然だが、学校はそういうことをまるで考えてないかのようなタイトルやコメントには悲しくなる。
    親にとってかけがえのない子だが、学校にはさまざまな子がいて、非常時の今、学校と家庭が、困難を共有するという視点がなければ、乗り越えるのは厳しい。

      
  • 匿名 says:

    学校が平常授業六時間目までが再開し1週間がたち、疲れが出始めたのでしょうか、息子が体調を崩し学校から迎えに来てほしいとの連絡が入りました。
    三ヶ月も休校していたので、リズムがなかなか取り戻せなかった様子でしたので、学校帰宅後は、なるべくのんびり過ごさせることにしています。

      
  • 匿名 says:

    〈東京すくすく編集チームから〉
    下記コメントをいただき、ありがとうございます。今回の休校中の課題についてはさまざまなご意見をいただいており、取材を続けています。よろしければ直接お話を伺わせていただければと思いますが、いかがでしょうか。お受けいただけるようでしたら、サイト最下部の投稿フォームから、ご連絡先をお知らせいただけますと大変ありがたいです。折り返しご連絡をさせていただきます。どうぞ宜しくお願い致します。




    中学2年生の子どもがいます。

    急な学校休業要請から3週間ほど不満を言っていた子どもも、世界各地の新型コロナの深刻な様子を知るにつけ、状況に順応していきました。ただ、宿題の量が多く、登校日(課題提出日)の前夜は定期テスト前かのような騒ぎで、保護者としては大変でした。

    私の子どもは注意欠陥といわれる発達障害を抱えていて、課題の全体量を把握し、スケジュールを立て計画的に物事をこなすのが苦手です。何をどの順序ですればいいのか分からず、いらつき、先延ばしにする傾向があります。

    9教科の大量の課題を前に、ただ先延ばしにする。先生の課題の指示が分からない(大人の目線でもどの教材に関する指示か不明だったりする事も多い)ため混乱し、ストレスから作業が進まない。ワークの単元導入部の簡単に済ませるべき問題も真剣に取り組んで、混乱する。こうした事が繰り返し起こる休校期間。定期テストが次から次へと行われるような錯覚を私が覚えたほどでした。

    学校の先生の指示も、「全部できなくても大丈夫です」と言われてたのに評価Cがついて返却されて子どもとその友人で驚いていたりと、何がどう本当の評価点につながるのか分かりにくいこともあります。内申点が公立高校受験の際に大切な公立中学で、子どもも親もストレスが高いです。

    その休校期間が明け、今週は本格的に午前・午後の授業、給食、部活が再開しました。今度は授業の課題提出と小テストが重なった初日の2日間。先生方の「学習範囲をカバーしなければ」という不安も分かるのですが、子ども達が抱えている課題の全体量を把握されていないと思われる過酷な量です。加えて今週は毎日体育があります。夜は塾が以前どおりあるので、子どもはもうクタクタです。

    先にも書きましたが、私の子どもは発達障害を抱えているため、こうした課題の多さに他の子ども達より苦しんでいる側面もあるとは思います。しかし、家庭で学習へのサポートが得られないケースなども考えると、子ども達の置かれている状況は厳しいです。

    文科省は、学習範囲の変更などを早めに行う必要があると思います。また、学校の行事縮小は先生方、子ども達の作業量とストレス軽減のためにも必要だと思います。

      

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