〈子どもが頭を打ったら 後編〉相次ぐ無罪判決、虐待判断の”SBS理論”に疑問 「疑わしきは親子分離」でいいのか

 第三者の目のない家庭で起きた、子どもの頭部への受傷が虐待と疑われ、親子が引き離されたケースを〈子どもが頭を打ったら 前編〉で紹介した。死亡など重大な結果に至った場合、親が「乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)」の加害行為で起訴されることがある。ただ近年は無罪判決が相次いでいる。虐待と判断した根拠となった、ある理論に疑問符がつき始めている。
2013年に改正した「子ども虐待対応の手引き」。SBS理論に基づき、「家庭内の転倒・転落を主訴にしたり、受傷機転不明で硬膜下血腫を負った乳幼児が受診した場合は、必ずSBSを第一に考えなければならない」としている(264~268ページ)" />

厚生労働省が2013年に改正した「子ども虐待対応の手引き」。SBS理論に基づき、「家庭内の転倒・転落を主訴にしたり、受傷機転不明で硬膜下血腫を負った乳幼児が受診した場合は、必ずSBSを第一に考えなければならない」としている(264~268ページ)

3症状があれば、本人が否定しても「暴力的な揺さぶり」

 「3つの症状だけでは虐待と判断できない。SBSの認定のあり方への疑念が高まっている」

 2月、日本弁護士連合会が東京都内で開いたセミナー。甲南大教授で刑事訴訟法が専門の笹倉香奈さん(42)が「SBS理論」の問題点を訴えた。

写真

日本弁護士連合会が2月に開いた「SBS仮説をめぐるセミナー 虐待を防ぎ冤罪も防ぐために、いま知るべきこと」=東京都内で

 この理論は、乳幼児の頭部に外傷がない場合、①硬膜下血腫②眼底出血③脳浮腫―の3症状があれば、本人が否定しても、SBSを招く暴力的な揺さぶり(=虐待)があったと推論するものだ。1970年代に英米の医師が提唱、虐待事件を見逃さないための判断の基準として1980~1990年代に世界に広まった。

SBS理論に基づく診断が、一時保護や有罪判決の根拠に

 日本でも1990年代に広まった。厚生労働省は2013年、虐待事例に対応する児童相談所や医療機関のガイドライン「子ども虐待対応の手引き」を改正し、SBS理論を盛り込んだ(264~268ページ)。硬膜下血腫のケースで、家庭内の転倒や転落を訴えたり、受傷の原因が分からなかったりする場合は、必ずSBSを第一に疑うように求めている。

 こうした例に当たる乳幼児を病院が確認した場合、児相に通告。児相は虐待の疑いありとして子どもを一時保護するなどしてきた。笹倉さんは「SBS理論に基づく医師の診断が刑事裁判でも有罪判決の根拠となってきた」と話す。

写真

「SBSの概念や診断基準そのものをゼロから検証す必要がある」と訴える甲南大教授の笹倉香奈さん=2月、東京都内で

欧米で見直し SBS理論の論文に「十分な科学的証拠ない」

 一方、脳神経外科医らは「虐待でなくても硬膜下血腫などは起きる」と指摘してきた。実際1960年代から、家庭内での転倒や低位からの落下などで乳幼児の硬膜下血腫が起きる例は知られてきた。

 2000年代に入ると、英国やカナダでは理論の検証と見直しが進んだ。米国では有罪判決が破棄されるケースもあった。2016年には、スウェーデンで中立的な立場の専門家が検証を行い、「理論についての論文には十分な科学的証拠がない」と報告した。

相次ぐ無罪判決 「有罪率99%超の日本できわめて異常」

 この流れは、日本の司法にも波及。SBS理論に基づいて虐待が疑われ、起訴された刑事事件で、弁護側が病気や窒息、事故など「他の原因を否定できない」などと法廷で主張するようになると、2018年以降、6件の無罪判決が相次いだ。司法関係者は「有罪率が99%を超える日本の裁判において、きわめて異常なこと」と指摘する。

写真

異なる医療分野の医師の意見が聞かれた立憲民主党の勉強会=3月、東京都内で

厚労省が調査研究へ 「福祉の観点から再検討するべき」

 政党や国会議員の勉強会でも、理論をめぐる議論が始まっている。3月末の立憲民主党の勉強会では、小児科医や脳神経外科医ら異なる医療分野の専門家を招いて意見を聞いた。

 勉強会では、厚生労働省の虐待防止対策推進室長の柴田拓己さんが「改正から6年。『手引き』も見直しを検討したい」と述べた。同室は本年度、虐待による乳幼児の頭部外傷事案への児相の対応事例や課題について調査研究を開始する。

 笹倉さんは「SBSの概念や診断基準そのものをゼロから検証し直すとともに、今の児相における『疑わしきは親子分離』という硬直的な対応は福祉の観点から再検討すべきではないか」と話す。

乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)

 首の筋肉が未発達の赤ちゃんが強く揺さぶられ、嘔吐(おうと)やけいれん、呼吸困難などの症状を呈すること。死に至ることもある。後遺症として失明や四肢まひ、言葉の遅れ、学習障害などがある。

2

なるほど!

4

グッときた

2

もやもや...

2

もっと
知りたい

すくすくボイス

  • 紅シバ says:

    6か月の我が子が一時保護されました!とても悲しいですし、寂しいです。私たちはけして虐待はしていないです。

    旅行中に机の脚に頭をぶつかっているようにみえたので息子は、頭の凹みが出来てしまい、救急搬送され、検査を受けた方が良いと言われ、受けました。CTでは出血はなく、入院した方がいいと言われましたので付き添い入院しましたが、とんでもなくきつくて、1日で終わりました。何故か、近くの病院の転院に決まっていて救急搬送されました。わたしたちは何度も病院に通って1週間も入院させられました。

    しかし、疑問が残ります。我が子は、頭打つ前と打った後も変わらずに寝返ったり、笑ったり、手足が動いたりするなどとにかく元気なのにずっと入院させられました。医師の判断ですべての検査を受けたにも関わらず、退院は伸ばされ、児相から一時保護され、わたしたちは警察に行きました。虐待疑いをされる意味がわからないです。MRI検査もレントゲンも視力検査も骨に異常は見られず、出血も見られず、病名もなく、しかも旅行の怪我でできた怪我じゃないと診断され、頭の凹みはもっと前からあって治りかけだと言われました。だったら、入院の意味がありますか?今まで発達も良くて、体重も5か月で8.3キロで身長も72.5センチでちゃんと離乳食も食べるし、ミルクもきちんと飲むし、寝る時間だって決めた時間に寝るし、お風呂だって大好きで気持ち良さそうに毎日、頑張ったのに虐待と疑いをされるなんてあり得ないです。

    入院中も一時保護中も普段と変わらずに色んな方々に抱っこされてもにっこりしているそうです。頭の凹みは、原因不明で家の中が危険だという判断をどうですか?毎回、ちゃんと4か月健診やワクチンだってちゃんと打って大事に大事に育ててきたのに病院の判断で虐待を疑われ、実際に児相で一時保護中です。ずっと、会えなくて辛いです。発達だってどうなっているかわからないです。

    離乳食すら進まないですし、大変なのにこういう家庭は結構、多いそうです。戻って来たら、また今まで以上に愛情を注ぎたいです。確かに放置している親もいるかもしれないです。けれども、ずっと家でも車でもベビーカーひとつで散歩を連れ回してずっと見ているのに引き離すなんてひどいです。社会が温かく見守ってもらえる社会にしてほしいです。

    紅シバ 女性 20代
  • 匿名 says:

    顔に数か月に3~4度怪我が続いたことを理由に2日前に一時保護されてしまいました。
    一定家庭内で過失はあったことは認めるものの、病院で診察を受けないとまずいような怪我はしておりません。また、ドアでたまたま顔をぶつけてしまったり、歩いていたらこけて怪我をしただけで、連れていかれるとは夢にも思いませんでした。
    実地調査に関しても、例えば高いところに登れない様にガードするものが必要だとか、注意してみないといけないですとか稚拙なアドバイスしか頂けず。それ位のことは当然やっていて、それでもまだ幼いのに体の発育だけ良くて怪我をして。。こちらは苦しみながら日々積み上げで、できるだけ怪我しない様に工夫しているのに、3度怪我をしたという情報と、その時の怪我の程度だけを見ただけで連れ去っていきました。
    正直、自分達の仕事を増やすために「これは重大な問題だ!」と事案をでっち上げ、行っているようにしか思えません。もしくは、最近重大な虐待事案を見逃してマスコミにやり玉にあげられた管轄下なので、少しでもやばそうな危険因子は保護しとけみたいな浅はかな号令を出しているとしか思えません。
    行政不服審査は当然提出致しますが、民事裁判も視野に動かないと取り返しのつかない事になるかもしれないと痛感しました。
    また、これを機に妻のメンタルが完全に崩壊してしまいました。この先仮に無事この冤罪、過失が放免となったとして、どうやってこの先児童福祉員達が強調されておられた”子供の健やかな生活”をすれば行えばよいのでしょうか?また、俺らの管轄では怪我せんように考えて生活しろよ!と言うだけなんでしょうね。

     男性 40代
  • るなちび says:

    どうか国は児童虐待防止法を見直して欲しい。今のままで行くのなら、SBSを疑われえん罪に苦しめられ人生を台無しにされた子供、親、家族のために、国は虐待をきちんと診断できる専門医の育成を早急に行うべきだ。つかまり立ちからただ家で転んだだけで打ち所が悪いと硬膜下血腫、眼底出血は起きる。不勉強な小児科医師は家での転倒事故では硬膜下血腫や眼底出血は100%あり得ないと断言している。虐待は決して許されないが今の国のやり方、この法律では本当に虐待が防げるかどうかはとても疑問で、ただお互いを信じられない殺伐とした社会を増長させているような気がします。

    るなちび 女性 60代
  • 匿名 says:

    虐待親が子どもを殺した、児童相談所は何故救えなかったのか、と大騒ぎ。「それなら、疑わしきは一時保護」児童相談所からすれば、そうなるのは当然です。そして今度は、虐待じゃなかったのに一時保護なんてひどい、と大騒ぎ。では、どうすればいいのか。救うためには躊躇ない一時保護以外ないのです。

    ここで考えるべきは、社会の在り方と許容されるリスクです。厚労省は虐待が激増していると嘘ばっかりの統計を公表しています。子供の前での夫婦喧嘩も虐待として加えました、みたいなインチキ統計ではなく、親に殺された子どもの数といった基準が一定の虐待統計を見れば、虐待数は激減しています。

    これをゼロにしなければ絶対に許せない。そんなことを言うから、疑わしきは一時保護、調べる暇もなく一時保護、調べが進まないから簡単には帰せない、そうした話になっているのです。

    殺人事件があったからと警察を責める人はいません。同様に、虐待事件があったからと児童相談所を責めるのは止めましょう。それが、こうした問題の解決の第一歩です。虐待死ゼロなど、人口1億の国にあり得ません。

      
  • 匿名 says:

    子供を勝手に虐待あつかいされ連れていかれ
    親子を引きさいた代償はだれがおうのでしょうか
    親子の居ないあいだの心の傷
    何も良く調べないで施設に連れて行く児童相談所の心境が分からない
    お金が入るからとききました。
    怖い世の中になりました。
    子供ろくろく産めない
    児童相談所も近辺を調べてしなければ
    犯罪と同じです。

      

この記事の感想をお聞かせください

0/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ