社会政策学者 阿部彩さん 双子の子育て、研究者の夫と常にツーオペで

双子の息子や夫について話す社会政策学者の阿部彩さん(池田まみ撮影)

各界で活躍する著名人が家族との思い出深いエピーソードを語るコーナーです
白い目で見られても「帰ります」
国立社会保障・人口問題研究所に勤めていた2004年に双子の男の子を出産しました。昨秋20歳になり、今年、成人式を迎えました。
08年に初めての本(「子どもの貧困 日本の不公平を考える」)を出したのですが、執筆していた07年のことを振り返ると「よく書いたな」と思います。まだ2~3歳だった2人を夜9時に寝かしつけて、10時から夜中の2時くらいまで集中して書いていました。
息子たちが保育園の年長児だった年に、部長という立場になりました。国立の研究所なので国会対応で夜遅くまで残ることもあるのですが、子育てのある私は部下に任せて帰ることもありました。「部長会を夕方から設定するのはやめてほしい」とお願いもしました。
審議会の途中でも「お迎えがあるので帰ります」と帰宅していたので、白い目で見られていたと思います。でも、このポジションまで行き着いた女性がそういうことをやっていかないと、これからの人はやれません。「私の後の女性のためにも、面の皮が厚い私がやらなきゃ」と考えて、周りの目を顧みず堂々とやっていました。
夫の職場の近くに住まいを決めて
いつでもどこでも、自宅でも仕事ができる研究職だったことに加え、夫が育児にしっかり関わってくれたのも大きいです。夫も研究者だったので、民間で働く人に比べれば時間の融通が利きました。
夫が都内の大学に職を得たのを機に、息子たちが1歳の時に引っ越したのですが、まず大学近くの保育園の空きを調べました。その園に入れそうな住所を探し、住まいを決めました。
当時、私は都心まで通勤していたので、園への送迎は夫がしていました。園に向かう途中に公園があり、送迎の保護者が園に急ぐ中、夫は子どもたちとオタマジャクシを見たりしながら、のんびりと登園。周りの保育園ママたちからは「あのお父さん、一体何してるんだろうね」と思われていたみたいです。

双子の息子や夫について話す社会政策学者の阿部彩さん(池田まみ撮影)
夕方は夫が保育園に双子をお迎えに行き、私はすぐに食べられるように夕食の準備。うちは(1人で子育てや家事を担う)ワンオペではなく、常にツーオペだったのは、夫に感謝したいです。それこそ周りの研究者の男性の中には、お子さんがいても全く変わらず、どんどん学会発表や出張を入れてしまう人もいるわけです。
でも、子育てって、人生の中で、一番といってよいほど楽しいことだと思うのです。子育てが終わって、今、残念に思うのは、子どもたちが9カ月の時に育児休業から復帰したこと。「なぜ、急いだのだろう」って。だから、子育てへの関わりが少ない男性には「子育てをやらなきゃ損するよ。人生のおいしいとこをやってないよ」と言いたいし、子育て中で仕事が思う存分にできないと焦る女性・男性には「子育て、楽しんで」と言いたい。
夫も私も、今は若い人をサポート
私自身は、結婚や出産を迷うことはありませんでした。既に結婚した時に総合職を辞めていますし、子どもができたらまた職を辞めてもいいと思っていました。不安に思う気持ちは分かりますが、キャリアは1本のものじゃない。寄り道してもいい。次の1年がなかったらダメなキャリアなんて、ほとんどありません。機会は先にもあるし、仕事以外にもボランティアなどやりがいがある活動もある。それくらいの軽い気持ちでした。実際、私の場合は転職もでき、それはただ私がラッキーだったのかもしれません。でも、これからのキャリア・パスは私の時代よりももっと多様化していて、いろいろな選択肢が可能になると思います。
それでも、私が子育てした時代はまだまだフルタイムで働くお母さんはマイノリティーで、子どもたちが小学校から帰ってくる時に家にいてあげられないなど罪悪感はいつもありました。でも、息子の一人が小学校低学年の時に「お母さんは厚生労働省の仕事をしているんだよね」と言ったことがあったんです。自分の職業について説明したことはなかったと思うのですが、息子たちなりに母親の職業を見てくれていること、誇らしく思ってくれていることが伝わってきて、うれしかったです。
子育てって小さい頃ばかりが大変だと思われがちですが、小学生も中高生も、大学生になった今も、形を変えて大変さは続きます。子育てが終わったら、親の介護が始まる人もいるし、ほかの人のケアではなくて自分の健康状態で「企業戦士」になれない人もいる。
今、息子たちに物理的な手はかからなくなり、私も小さな子を子育て中の人をカバーする立場になりました。私たちが子育て真っただ中の時代は、上の人たちはみな「企業戦士」だった。でも、今の子育てしている方々の前には、私たちのような子育てをフルにやってきた人がいる。夫も「俺も若くて子どもが小さい時に、いっぱい周りに迷惑をかけてきた」と言い、若い人をサポートしています。持ちつ持たれつですよね。
阿部彩(あべ・あや)
1964年、東京都出身。父親の転勤に伴い、高校から米国で学ぶ。国連、海外経済協力基金、国立社会保障・人口問題研究所などを経て、2015年から首都大学東京(現・東京都立大)教授。専門は貧困・格差論、社会保障論、社会政策。主な著書に「子どもの貧困 日本の不公平を考える」(岩波新書)、「子どもの貧困Ⅱ 解決策を考える」(同)など。
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