〈古泉智浩 里親映画の世界〉vol.8『JUNO』16歳で妊娠、養子に出すと決めたけど

古泉智浩「里親映画の世界」

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採点表

vol.8『JUNO』(2008年 アメリカ/新生児/インディーズ)

 これまで様々なケースの里子や里親を扱った映画を紹介してきましたが、今回は養子に出す立場を深く描いた作品を紹介します。結末には触れませんがけっこうなネタバレなので、さらの状態で楽しみたい方はぜひ見てから読んでください!

 ジュノ(エレン・ペイジ)は16歳の女子高生。ある日、自分が妊娠していることに気づきます。中絶のため婦人科に向かうのですが、婦人科の前では同級生の女の子が1人で中絶反対の看板を掲げて反対活動をしています。彼女に説得されたわけではないのですが、その場の雰囲気などで思いとどまったジュノは出産を決意します。

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 ジュノはけっこうな変わり者で、「普通」が大嫌いなサブカル女子。若々しくて可愛らしくもあるのですが、周囲が引くような本気とも冗談とも分からないブラックジョークを飛ばして喜んでいるタイプです。

 子どものお父さんは、一緒にバンドをしている同級生の親友、ポーリー(マイケル・セラ)。勉強はできるし、陸上部の活動に熱心で、バンドもやっていて、威張ったり、変に背伸びしたりしない心根の優しさが感じられる本当に素敵な青年です。やんちゃなジュノに振り回されて手を焼いているのですが、面倒な反面かわいらしくて、顔もきれいな彼女に好かれたら、高校生男子としては粗末にはできません。そして、たった一回のセックスで妊娠してしまいました。

 妊娠を告げられたポーリーは、大いにぶったまげてしまいました。実際、この問題に対してはほぼジュノに任せきりで何もしていない…。完全に固まっていました。実は僕も当事者としての経験があるので、彼の気持ちが痛いほど分かります。

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 とはいえ、お腹で赤ちゃんを育て、出産する、という現実は、女性が負うのです。ジュノ自身の家庭は、両親の離婚後、元軍人のお父さんと、再婚相手の継母、お父さんと継母の間にできた妹と4人暮らし。継母ともあまり仲がよくありません。ジュノは子どもを産んだら、子どもを欲しがっている人に託す計画で、新聞で相手を探します。アメリカの新聞では、「文通希望」とか「売ります・買います」のような広告欄に、「赤ちゃん募集」も掲載されているようです。ジュノは新聞に写真が掲載されていた感じの良いカップルに、早速連絡をしました。

 不妊治療で長い間苦労していて、旦那さんはCMソングの作曲家というイケてる夫婦です。立派で素敵な一軒家に暮らしています。特に美人の奥さんがジュノの申し出を大歓迎してくれました。ジュノとジュノのお父さん、弁護士、夫婦が同席して契約書を交わすところもアメリカらしいなと感じました。

 6年間不妊治療していた僕は、ここでも、「そう、そう、そう!」と、この夫婦の気持ちがとてもよく分かりました。喉から手が出るほど子どもが欲しかった。特に、うちの下の子(1歳の女の子)は妊娠中から里子に出すという条件だったため、娘を産んだママさんは、ジュノのような状況で出産に向かったのかなという思いで映画を見ました。

 季節はめぐり、ジュノのお腹はどんどん大きくなっていきます。お腹が大きくなっても学校は休まず勉強を怠りません。日本ならもっと奇異な目で見られて、居場所がなくなりそうですが、ここでもアメリカとの違いを感じます。

 ジュノの素敵なところは、ひねくれ者で変わり者であるのですが、けして弱虫ではないところです。妊娠が分かった時も、相当困ったはずなのに、彼に対して当たることもせず頼ろうとすらしませんでした。出産を決心し、両親にそれを宣言する時も毅然としていてかっこよかったのです。常にブラックジョークを交え、相手を困惑させようとすらします。

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 ですが、そんな彼女もお腹が大きくなるにつれ、子のお父さんであるポーリーに当たり散らします。彼も言い返したことで2人の関係は壊れてしまいます。一方、出産が近づいてくると、それまで仲が良いとは言えなかった継母がお母さんの先輩としてめちゃくちゃ頼りになります。うちにも子どもが初めて来た時、それまでただのおばさんとしか思っていなかった周囲の年配女性たちが全員、大ベテランの「先輩」になりました。皆さん育児の苦難を乗り越えてきた猛者たちです。胸が熱くなりました。

 心配だったのが、子どもがお腹を蹴り出したりして実感が湧くことで、ジュノが「やっぱり養子に出したくない」と思うのではないかということ。ここまで見ていて、おじいちゃんおばあちゃんも若いし、ポーリーもナイスガイだから子どもを見たらきっと好きになってくれるだろう、という思いになりました。それもありではと思う一方、僕自身の里親として子を迎えた経験やその時の自分の気持ちも思い出されて、「それは困るなあ」と心が引き裂かれそうでした。

 果たしてジュノは無事、出産するのでしょうか。生まれた子どもを養子に出すのでしょうか。続きはぜひ映画を見てお楽しみください! 里親として、ジュノとポーリーの子どもならぜひ引き取りたいと思わずにはいられなかったので勇気度は8としました。

◇予告編

 

◇ブルーレイ発売中
1905円(税抜き価格)
販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)

 1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。代表作に『ジンバルロック』『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』など。不妊治療を経て里親になるまでの経緯を書いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』や続編のコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』で、里子との日々を描いて話題を呼んだ。現在、漫画配信サイト「Vコミ」にて『漫画 うちの子になりなよ』連載中。

〈古泉智浩 里親映画の世界〉イントロダクション―僕の背中を押してくれた「里親映画」とは?

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