「しつけ」でもダメ!4月から体罰は法律で禁止されました 世界で59番目 子どもへの暴力のない社会へ、意義と課題は
ニュースがわかるAtoZ
親などによる体罰の禁止を盛り込んだ改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が4月に施行された。「しつけ」と称した暴力を受けた末、命を落とす子どもが後を絶たない中、法律に体罰禁止が明記されたことで、子どもへの暴力のない社会に変わっていくことが期待される。法施行の意義と今後の課題をまとめた。
きっかけは結愛ちゃんと心愛さんの虐待死
体罰禁止が法制化される大きなきっかけは、親の虐待で子どもの命が奪われる、という最悪の事態が相次いだことだ。2018年3月には東京都目黒区で5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが、翌2019年1月には千葉県野田市で小学4年だった栗原心愛(みあ)さんが、いずれも父親からの暴力を繰り返し受けた末に亡くなった。
父親らが「しつけだった」などと供述したことが報じられると、「しつけ」と称した暴力を許してはならないという世論が高まった。近年、体罰が子どもの成長や発達に与える悪影響が知られるようになったことも、法制化の議論を後押しした。こうして児童虐待防止法と児童福祉法の改正法が2019年6月に成立、法に「児童のしつけに際して、体罰を加えてはいけない」と明記された。
暴言、笑いもの…尊厳を傷つけるのも禁止
子どもへの体罰禁止は1990年に発効した国連の子どもの権利条約に規定されている。国連子どもの権利委員会は、体罰の定義を具体的に提示。どんなに軽いものであっても、子どもが苦痛や不快感を覚えるものは禁止すべきだとした。暴言や笑いものにするなど、子どもの尊厳を傷つける行為も禁じる。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの川上園子国内事業部長は「改正された法律だけでは、こうした国際基準を満たさない」と指摘。民法に規定された親が子を戒める「懲戒権」に基づき、「監護や教育に必要な範囲」であれば「しつけ」と称した暴力を認める余地を残すことなどが理由だ。
だが、法改正後に厚生労働省の検討会が作ったガイドラインは、不快感を意図的にもたらす罰はどんなに軽いものでも体罰と明記、親以外のすべての人に許されない点も盛り込んだ。これを受け、国際NGO「子どもに対するあらゆる体罰を終わらせるグローバル・イニシアチブ」は2月、日本が世界で59番目の体罰全面禁止国になったとする声明を発表した。
世界初スウェーデン 40年でこんなに変化
体罰禁止の法制化で、何が期待できるのか。川上さんは「法律に明示されたことで、どんなときも、だれでも体罰をしてはいけないという新しい社会規範をつくるスタートラインに立った。その意義は大きい」と解説する。
日本では、体罰を容認する意識が根強く残る。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの2017年の調査では、しつけのための体罰を容認する人は6割近くに上った。川上さんは「子どもには暴力から守られる権利があるということを、大人も子どもも知らないことが多い」と指摘する。
法制化がこうした意識を変える可能性があることは、すでに体罰を全面禁止している国の調査などから明らかだ。1979年に世界で初めて、あらゆる場面における子どもへの体罰等を法律で禁止したスウェーデンを見てみよう。法律ができる前の1960年代には、体罰を肯定的にとらえる人の割合が6割近く、体罰を用いる人も9割以上だったが、法制化から40年近くたった2018年には、いずれも1~2%まで減っている。こうした傾向は他国でも見られる。
罰則なくても、先行国は意識や行動に変化
「成果を上げている国では、法制化と同時に子育て中の人以外も含めたすべての人への啓発活動や、アクセスしやすい子育て支援メニューの充実に取り組んでいる」と川上さん。「体罰をなくす」という社会的な目標に法的根拠ができたことで、行政が積極的に施策を進めたり、予算を確保したりすることを期待する。
改正法をめぐっては、体罰を加えた場合の罰則がないことに「実効性がないのでは」との意見も出ていた。だが、川上さんは「罰則は親や養育者を追い詰めることにもなりかねない」と指摘。「スウェーデンやフィンランド、ドイツなど罰則がない国でも、国民の意識や行動を変える成果が出ている。他国の長期的な取り組みに学びつつ、国が定期的に意識や行動の変化を調査する必要もある」と話す。
たたいてしまった親も傷つき孤立している
「あなたは虐待していると責めるためではなく、苦しい状況の人をみんなで支えますよと伝えるための法律です」
厚労省ガイドラインを策定した検討会の座長を務めた恵泉女学園大の大日向(おおひなた)雅美学長はこう強調する。長年母親の育児ストレスなどを研究し、都内で子育て支援施設も運営する大日向さんは、法改正に戸惑う親たちの声を聞いてきた。
刑罰に問われるような虐待ではなくとも、「たたいてしまった」「怒鳴ってしまった」という声は後を絶たない。「程度の差はあれ、子どもに一度も手を上げたことがない親のほうが少ないのではないか。そして、多くの親はそのことにとても傷ついている」。大日向さんは法改正を機に、こうした親の孤立や不安にこそ目を向けるよう訴える。
一方、手を上げた親が「これはしつけだ」と正当化してしまうと、坂を転げ落ちるように深刻な虐待につながっていく恐れがある。「だからこそ、育児がつらいという声を早い段階で受け止め、支える必要がある」
残された課題 少年院法や民法の懲戒権
日本は国際的に体罰全面禁止国として認められたが、残された課題もある。
国内法では、少年院法など体罰を明確に禁じていない法律もある。民法の懲戒権の規定をなくす必要性も指摘されている。懲戒権は改正法施行後2年をめどにしたあり方の検討が盛り込まれており、法制審議会で議論が始まっている。
また、ガイドラインに盛り込まれた「すべての人への体罰禁止」を法律自体に明記することも必要だ。大日向さんは「子どもの命と人権を守るために一歩踏み込んだのが今回の法改正。日本社会で一人一人の人権を尊重する意識が高まるきっかけになってほしい」と期待する。
コメント