自殺した中学教員の父に、教委幹部が耳を疑う一言… 長時間労働の改善を訴え遺族らが会見

榎本哲也 (2023年5月27日付 東京新聞朝刊)
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嶋田友生さんの遺影を前に、教員の長時間労働是正を訴える父の富士男さん=26日、東京・霞が関の文部科学省で

 2014年、連日の長時間労働の末、自ら命を絶った福井県若狭町立中学教員の嶋田友生(ともお)さん=当時(27)=の父、富士男さん(63)=同県美浜町=が26日、教員の「定額働かせ放題」の温床とされる教職員給与特別措置法(給特法)の廃止などを求める教員や有識者らによるグループが東京都内で開いた記者会見に出席した。与党が示している改正案に「過労死はなくならない」と懸念を示した。

日記に「今、欲しいものは…睡眠時間」

 友生さんは2014年、福井県教員に採用され、若狭町立中に赴任。1年の担任や社会などの教科、野球部の副顧問を担当していたが、同年10月に自殺した。残された日記には「今、欲しいものはと問われれば、睡眠時間」「指導案、レポートとやらねばならないことがたくさんあり、しかし体が動かず…」などとつづられ、表紙の裏には「疲れた。迷わくをかけてしまいすみません」と走り書きがあった。最後の言葉とみられる。

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嶋田友生さんの日記。自殺の5カ月前。「今、欲しいものは睡眠時間」=遺族提供

 友生さんの死去後、富士男さんは町教委事務局長にこう言われ、がくぜんとした。<亡くなったことは残念ですが、皆に慕われたいい先生で、よかったではないですか

 「耳を疑った。『いい先生』だから、息子は自分を追い詰めたというのか」

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日記の表紙裏の走り書き。「疲れました。迷わくをかけてしまいすみません」(遺族提供)

 富士男さんは、自殺の原因は長時間労働による精神疾患で、学校側が安全配慮義務を怠ったとして、美浜町と福井県を相手に福井地裁へ損賠提訴。パソコンの記録などから残業が月128~161時間にのぼると訴えた。2019年に勝訴。町と県は控訴せず、確定した。

お金が増えても、残業が減らなければ

 あれから4年。教員の長時間労働、なり手不足は深刻なままだ。永岡桂子文部科学相は今月22日、給特法のあり方を含む教員の処遇改善、働き方改革の検討を中央教育審議会(中教審)に諮問した。

 これに先立ち、自民の特命委員会がまとめた提言では、給特法を改正し、残業代が出ない代わりに教員に支給する「教職調整額」を現行の「月給の4%」から「10%」に増額すべきだ、などとしている。

 「お金が増えても、残業や仕事が減らなければ、過労死はなくならない」と富士男さんは言う。「今、自分の命は守られていますか?と、頑張っている先生方に問いたい。時間や仕事に追われるのではなく、子どもたちに親身に寄り添えるよう、働く環境を整えてほしい」

【関連記事】#教師のバトン 記事に現場から悲鳴続々「平日12時間以上勤務、土日も…」「もうどうしていいかわかりません」→こちら 

働かせ放題の温床・給特法 自民改正案は「管理職の責任があいまい」

 「長時間労働を改善することの校長など管理職の責任があいまい」。会見に出席した、学校などの働き方改革に取り組むコンサルタント会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長は、自民の提言案の問題点をこう指摘した。
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給特法廃止などを訴える会見に臨む(左から)中原淳立教大教授、小室淑恵ワーク・ライフバランス社長、嶋田富士男さん。嶋田さんの手前は自殺した長男・友生さんの遺影

解像度の低い言葉「頑張っている」

 自民案は

  • 教職調整額を基本給の4%から10%以上に増額
  • 学級担任手当の新設など処遇改善
  • 校務デジタル化などによる効率化で残業時間月45時間以内を目標にし、将来は月20時間以内を目指す

―など。一般企業のような時間外手当の導入は「取るべき選択肢とは言えない」と否定的だ。

 残業を減らすには、教員の仕事を減らさなければならないが、小室社長は「この行事はしなくてよい、この資料は作らないなど、仕事を減らすには管理職の許可が必要。責任が不明確では減らせない」と懸念を示した。

 自民案で処遇改善について「真に頑張っている教師が報われるよう、職務の負荷に応じた給与体系」の構築をうたっていることには、中原淳・立教大経営学部教授が「『頑張っている』などという、解像度の低い言葉で政策を決めないでほしい。丸1日、学校にいて、先生方の多忙な実態を見てほしい」と話した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年5月27日

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  • ツル says:

    同じ労働者なのに、なぜ教員だけ違うのか。公務員なのに教師だけ待遇が違うのか。自殺、精神疾患と一向に改善されない。企業がこんな環境の場合、政府は改善警告するのに、国の管轄である教師が過労死寸前なのに気にもとめない。これって、政府は殺人罪の問われてもおかしくない。

    すぐにできる、部活、大会の全廃。体育館貸し出しで生徒、保護者で運営すればよいこと。教師の理不尽な立場、現状を、保護者全員に伝えないと、知らないひとが多い。学校管理者は、教師を守って!

    ツル 女性 60代
  • 元教員 says:

    教育委員会は絶対に自らは責任を取らない組織である。おかしな決定を下した人間の氏名を明記するようにし、責任の所在を明確にしなければならない。ヒラ教員の不利益は常に握り潰されてきたし、子分の管理職はハラスメント等酷いことをしても守られる。言葉に表せないくらい強い怒りを覚える内容だ。

    元教員 男性 50代
  • たかこ says:

    もう定年退職していますが、子育て中は本当にきつかったし、綱渡りでした。自分の子どもが自立してから、気持ちの面では余裕をもって働いていた(帰る時間を気にせずに)のですが、校長からの暴言で立ち直れなくなり、本当に自殺してしまうところでした。「このまま死んだら、何の心当たりもない」とか「病気を苦にして」なんて校長に言われそうだと考えているうちに、何とか踏みとどまれました。

    他の方からのサポートもあったし、反対に校長からの吊し上げやとどめをさす言動もありました。市教委の幹部の言葉、本当に辛かったとおもいます。今でも、テレビから聞こえる大きな声やニュースの中の銃撃音で、その場の出来事を思い出します。労働環境の改善はもちろん急務ですが、亡くなった方に対して、……よかったなどという言葉は絶対にやめてください。

    たかこ 無回答 60代
  • キガネムシ says:

    お偉いさんが自分の問題として捉えられていない。知人が、友人が、家族が、自分自身がそのような立場に置かれた時のことを想像してもらえないだろうか。まず現文科相が身をもって示してくれないか?人が亡くなったら土下座しても帰ってこないんだぞ。

    キガネムシ 男性 50代
  • なんだろうね says:

    教員調整手当は、残業代というより、定時までの間、5分ですら休憩時間が無いことの調整手当だと思います。もともとは残業代としての手当なのでしょうけど。でも残業代って、アルバイトですら25%上乗せなのだから、どうなのでしょうね。

    会社員で、休憩時間一切無く働かせたら、労基法違反なのに、国も行政も、現場の人間には教員に関係なく、働かせる。

    毎日45~50分、授業という名前のプレゼンを、4回以上は行う職業なので、授業の空き時間休んでいる教員などいないし、給食の時間も昼休みも、生徒指導で職員室にすらいない、、、。役所では、昼時間は一切受け付けない窓口、照明すら消して休憩するし、会社でも昼は電話すら繋がらない所もあるのが、今のスタンダードなのにおかしいと感じないのかな。休憩時間まで、データで出てこないから、考えようもないのだろうけど、それこそ現場の人間の為の政策になっていないことが、良く感じられる。

    部活動の地域移行で、残業が減るだろうもそうですが、もともとの勤務時間中の仕事を、働き方を改善するのが、働き方改革では無いのだろうか。

    新卒でも、勤務実態で給料を時間給にしたら、最低賃金以下が普通の職業ですから、誰もやりたがらないのは、しょうがないですね。

    なんだろうね 男性 30代

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