LGBTQは特別な存在? 元なでしこで今は「男性」の3人「ミュータントウェーブ」が一風変わった講座 誰だって多様性の中の一人

加藤祥子 (2025年1月20日付 東京新聞朝刊)
 日本女子サッカーリーグ「なでしこリーグ」で活躍し、引退後は男性として生きる3人が、性の多様性について考える講座や研修を全国で開いている。性的少数者(LGBTQ)について知るだけでなく、自分自身も多様性の中の一人だと気付かされる一風変わった内容が好評だ。
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講演する(左から)山本朝陽さん、大嶋悠生(ゆう)さん、大川政美さん

多様性って何?の問いかけから

 3人は山本朝陽さん(32)と大嶋悠生(ゆう)さん(37)、大川政美さん(33)で、「ミュータントウェーブ」というグループ名で活動する。

 「多様性の言葉のイメージを紙に書いて」。名古屋市で昨年11月に開かれた講演会で、大嶋さんが参加者に呼びかけると、「民族」「生き方」「障害」「LGBTQ」といった言葉が挙がった。

 講演などを通じて約3年で出会った4万人近くの中には、多様性と聞き「自分」と書いた小中学生もいたという。一方、大人の多くは「多様性」を自分の外側のこととして捉え、自分ごととして考えにくくなっていると大嶋さんは考える。

無意識の思い込みを可視化する

 そのため、自己理解を深めることをポイントにし、講演には、無意識の思い込み「アンコンシャスバイアス」に気付くための課題をいくつも盛り込む。その一つが「1~10」を紙に書く作業だ。同じ指示なのに、10までのすべての数字を書く人、「1~10」と書く人、これらの数字の中から選んだ1ばかりを書く人とさまざまで、狙い通り、参加者は他者との違いを体感する。

 さらに仕事や家庭でのこだわりや、自分の好きなところなども追究する。メンタルトレーナーでもある山本さんは「自己理解を進めることで自分が許せるようになり、他者の許容につながる」と説く。

表:ミュータントウェーブの3人の「性の4要素」

人の数だけセクシュアリティー

 自己理解を促しながら、LGBTQの基礎知識にも触れる。その中で、「性の4要素」を紹介しつつ、生まれた時の性と性自認が違うミュータントウェーブの3人でも、セクシュアリティー(性のあり方)が違うことを可視化。大嶋さんは「人の数だけ、セクシュアリティーがある」と、すべての人の性が多様であることも伝えた。

 受け手側の狙いや成果はどうなのか。今回、主催した「ナーベルプラ座」は、愛知県内で性教育に取り組んでいるが「少数者を理解してあげよう」という多数派としての視点があったという。代表の伏田綾さん(48)は「今後は、多様な中の一人だと伝えたい。性教育に厚みが出る」と話す。参加した大学4年生(21)=岐阜県=は「枠に当てはめるのは楽だが、それは違う。困っている人の声として聞きたい」。

企業の研修で起用 働きやすさのため

 企業が「ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(包摂)」の推進研修として取り入れるケースも増えている。東京海上日動火災保険(東京)は、昨年11月に50人ほどが受講。これまでもLGBTQの理解促進セミナーを開いてきたが、「特別な存在」という意識を払拭できていないという課題があった。受講者からは「他者への思い込みを減らすことが社員全員の働きやすさにつながる」といった声があったという。

 軟包装資材商社のカナエ(大阪)は、2023年末から1年ほどかけて約500人の全社員を対象に実施。研修を機に同性パートナーシップ制度の導入や、仕事上の通称使用の拡大にも取り組んだ。

 野村不動産(東京)は、2月にできる複合開発のビルの仕様に多様な声を反映させるためワークショップに3人を招いた。社員は、枠にはめるのではなく「人と人として理解することが大切」と気付かされたという。

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