葉っぱ切り絵アーティスト リトさん 30代でADHDと診断 家族の言葉で自分の集中力に気付けた

加藤祥子 (2025年5月4日付 東京新聞朝刊)

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作品を手に母親とのかかわりを話す葉っぱ切り絵アーティストのリトさん(石橋克郎撮影)

カット・家族のこと話そう

各界で活躍する著名人が家族との思い出深いエピーソードを語るコーナーです

母と僕の共通点は…忘れ物

 「葉っぱ切り絵アーティスト」として、1枚の葉を細かく切り抜いて作品にし、交流サイト(SNS)で発信しています。全国で作品展を開いたり、作品集を出版したりもしています。

 家族は父と母、弟の4人で、今は両親と3人暮らし。母は忘れ物が多く、集中するとその世界に入り込むなど、僕とよく似ています。父とは似ていないですね。弟は飽き性かなと思います。

 作品には、家族との思い出を基にしたものがあります。カレーのにおいがしてきて、母が鍋をかきまぜていた姿や、父と一緒に自転車の練習をした場面などです。

 僕は、昔から過度に集中する特性がありました。食事の時に魚の骨をずっと取り続けていて「みそ汁が冷める」と注意されたことも。細かいことにはまっていると、親に「よく、そんなことができるね」と驚かれもしました。注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受けた後、得意なことと苦手なことを洗い出したのですが、今思い返すと、こういった家族からの言葉が、自分の集中力に気付くきっかけだったかもしれません。

母のうつ病をきっかけに

 母は、葉っぱを使った刺しゅう作品を作っていて、「ゆきえ」の名前でSNSで紹介しています。6年ほど前にうつ病になり、何も手につかない時期がありました。趣味を見つけてほしいと思って「探してみたら」と言ったら、かえってそれがプレッシャーになると。そういえば、母は昔から、息子のことになると一生懸命でした。それを思い出し、僕の活動の手伝いをお願いしました。

 ちょうどその頃、僕は絵を描いて販売していたので、値札を粘土で作ってもらっていました。その後、僕が葉っぱ切り絵を始め、母は絵を描いて…。でも親子で同じことをやった方が面白いと、母に葉っぱの刺しゅうを勧めました。

 やり始めると午前3時まで起きていることも。僕と一緒で、気にいらないところが1カ所でもあると、それを直すまでは作業を終えられません。今は自発的に取り組んでいて、母に面白いことが見つかって良かったと思っています。作品については、僕から母へアドバイスすることが多いですが、母がSNSで紹介した作品に寄せられた反響を見て、「逆輸入」したことも。

 これまで両親には心配や迷惑をかけてきました。僕はテンポよく仕事ができず、すしのチェーン店で働いていた頃は午前5時に家を出て、午前0時に帰宅することもありました。やめた後に両親から「いつやめてくれるかと思っていた」と言われたんです。

 だから、やっと恩返しの番だな、と。子どもの活躍は親にとってはうれしいこと。海外での作品展などもできたら喜ぶでしょうし、新しいことをやっていきたいですね。

リト(りと)

 1986年、神奈川県出身。本名は橋本賢治。2018年にADHDの診断を受け、過度な集中力やこだわりを前向きに生かすために、20年から独学で葉っぱ切り絵の制作を始める。SNSのフォロワーは現在82万。作品集に「葉っぱ切り絵いきものずかん」(講談社)などがある。25年、第3回「やなせたかし文化賞」大賞受賞。

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