保育士の虐待「見たことある」25人中20人 背景に人手不足、過重労働…ユニオン調査で判明
突き飛ばす、閉じ込める、いすを投げる、園長が職員に罵声…
アンケートは今年6~8月、組合員の保育士らにインターネットで実施し、関東や東北地方で働く25人から回答がありました。子どもをたたくなど身体的な虐待のほか、怒鳴る、放置するなど心理的に追い詰めるような対応を、ほかの保育士や職員が行うのを見たことがあるか尋ねたところ、20人が「ある」と答えました。
具体的には以下のような回答がありました。
- 3歳児が言うことを聞かないからといっていすを投げ、大きい音を立てていた。(株式会社が運営する自治体独自基準の保育施設)
- 1歳児が言うことを聞かず、担任保育士が突き飛ばす。隙間に閉じ込める。無理やり牛乳を飲ませる。(株式会社が運営する認可保育所)
- 主任保育士が気に入っている子のみおかわりをあげる。(社会福祉法人が運営する認可保育所)
- 「しつけのため」という理由で(子どもを)暗い部屋に閉じ込める保育をしていた。そして、忘れて放置してしまうことがたびたびあった。(小規模保育施設)
- 保育園の業務用のiPadで暇さえあればYouTubeを見せて放置している。園長と主任は見て見ぬ振り。(株式会社が運営する認可保育所)
- 園長先生が職員に対して子どもたちの前でも罵声を浴びせた。(株式会社が運営する小規模保育施設)
背景に「1人で多くの園児をみる」「休憩が取れない」労働環境
自分自身が感情的に対応してしまった経験も、10人が認めました。その時の状況について、「1人で20人以上の子どもを見ていた」「休憩が取れず、サービス残業が多い」「先輩のパワハラがあった」などストレスを抱えていたことを挙げる人が多くいました。「子どもがかわいいと思えない時がある」と打ち明けた人もいました。
アンケートをまとめたユニオンの担当者、池田一慶(いっけい)さん(39)は「保育士が厳しい労働環境で追い詰められている表れだと思う。行政の定める基準では保育士の配置人数が少なすぎ、一人一人の過重労働で現場が成り立っているのが現状」と話します。
ふだんから寄せられる相談の約8割は、残業代が出ない、休憩時間がないなどの労働基準法違反にあたる内容といいます。池田さんは「このままでは子どもの安全を守るという最低限の保育も保障されない。改善が必要」と訴えています。
◇介護・保育ユニオンでは、保育士からの相談も受け付けています。詳しくはホームページで。
識者の声「保育施設の内情は見えづらい。自治体は情報集めるべき」
◇保育士の労働実態に詳しい名城大学の蓑輪(みのわ)明子准教授の話
このような調査はあまりなく、結果に驚いた。過重労働のストレスと人手不足の影響を感じる。保育施設の急増で若い保育士が増えたが、子どもへの向き合い方を学んだり考えたりする時間がない。経験のある保育士も、学ぶ余裕がなければ自己流の保育になってしまう。
行政は、保育士の配置基準を引き上げ、現場に余裕を持たせることが必要だ。個々の施設には、不必要な行事の見直しなど労働環境を改善する努力が求められる。保育施設の内情は見えづらい。自治体は積極的に情報を集め、問題があれば指導するべきだ。
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【2019年3月25日 追記】多くのコメントが寄せられたことを受けて、現役の保育園園長を取材しました。虐待や不適切保育をなくすために、現場で今すぐに取り組めることもあります。以下の記事をご覧ください。
「〈反響に応えて〉『保育士の虐待』にコメント多数 現役園長に解決へのヒントを聞きました」(3月22日)
<特集「大丈夫?保育の質」トップはこちら>
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