
子どもの医療的ケアを担うソイナースの看護師
小児専門の看護師による訪問看護サービス「
ソイナース」を展開
する「メディ・ブランカ」(千代田区)。日常的にたんの吸引や経
管栄養などを必要とする「医療的ケア児」を対象に、
事業の対象地域を広げている。社長の横山佳野さん(36)は「
子どもたちの成長が、看護師のやりがいにもつながっている」
と話す。
祖父母にも保育士にも預けられない「看護師の出番」
大学卒業後、看護師として大学病院などで8年間働いた横山さん。最も記憶に残るのは、集中治療室(ICU)で見た、医療的ケアが必要なわが子の付き添いで疲弊している母親たちの姿だった。「祖父母にも保育士にも預けられない子どもたちがいる。看護師の出番だと思った」

医療的ケア児の訪問看護サービスを手がける横山佳野さん=千代田区で
看護師の働き方についても課題を感じていた。忙しさや夜勤によるストレスで、雰囲気の悪い職場が少なくない。正解のない看護という仕事で、やりがいを見失いかけていた横山さん。働き方を模索する中で、「理想の職場を、自分でつくろう」と、2019年に起業した。
「勢いで立ち上げた。今思うと違うやり方もあったかも」。経営知識がなく、見通しも甘かった。しばらくは資金繰りに頭を抱える日々。一方で、医療的ケア児の看護ニーズの大きさを確信し、23区を中心に医療的ケア児らの家族に寄り添うサービス「ソイナース」を本格的に開始した。21年には訪問看護ステーションの指定を受け、利用者が公的医療保険や、都、23区独自の助成を活用できる体制を整えた。
三鷹、前橋、府中にも拠点 親たちの新たな一歩が励み
資格を持っていながら働いていない潜在看護師は80万人とも言われる。「小児の仕事がしたい」「早朝の仕事ならできる」「夜間ならできる」という柔軟な働き方へのニーズは高く、今では同社の登録看護師は約3000人に上る。「看護の質は絶対に落としてはいけない。熱意のある看護師が集まった」。サービスの利用で、親たちが「仕事を始めた」「習い事を始めた」と、新たな一歩を踏み出すことが何よりの励みという。

車両内で吸引のケアをする看護師
経営も次第に軌道に乗り、正社員は15人、パートは100人以上。昨年11月には東京都三鷹市、今年5月には前橋市に拠点を設け、東京都府中市には近く、児童発達支援に特化した拠点を開業する。ケア児の支援を国、地方自治体の責務とした「医療的ケア児支援法」が年に施行されたものの、行政の対策は追いついていないと感じている。「行政にもノウハウの提供などで積極的に働きかけていきたい」

前橋市の拠点の責任者と話す横山さん(右)