子どもが見ている前で親が… 急増する「面前DV」深刻な心の傷

 虐待の疑いで警察から児童相談所に通告される子どもの数が増えています。今年上半期(1~6月)に通告された件数は3万7113人(前年同期比22.6%増)にのぼります。中でも急増しているのが面前DV(ドメスティックバイオレンス)で、6年前の約7倍です。どちらかの親が子どもの前で、配偶者に暴力をふるったり、暴言を吐いたりする行為です。

グラフ 児童相談所に通告された子どもの数と、面前DVの数

 そもそも児童虐待は、態様によって4種類に分かれます。殴ったり、蹴ったり、激しく揺さぶることは身体的虐待と呼ばれます。子どもへの性的行為や子どもに性的行為を見せることは性的虐待にあたり、家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にすることなどはネグレクト(育児放棄)です。言葉で脅したり、きょうだい間で扱いに差をつけたりすることは心理的虐待です。面前DVはこの心理的虐待に含まれます。

 警察庁の統計では身体的虐待やネグレクトも増加傾向にありますが、面前DVの増加が際立っています。背景には、警察がDV事案にかかわった際、その家庭に子どもがいれば、児童相談所に通告することが徹底されてきていることがあります。

どこからDV?子どもはどんな傷を受けるの?

 直接子どもに向けられていない面前DVがなぜ児童虐待にあたるのでしょうか。元千葉県職員で児童相談所や女性サポートセンターでの勤務経験がある昭和学院短大(千葉県市川市)の教授・松野真さんに尋ねました。

昭和学院短大教授の松野真さん

面前DVは子どもにどんな影響があるのでしょうか。

 例えば夜中、家の中で親が暴力をふるえば、子どもはその音や声を聞いただけで寝られなくなります。生活のリズムは崩れ、身体の不調が出てきます。暴力の現場を見ていれば、トラウマ(心的外傷)として残ります。

 また親がいつ、何をきっかけに、感情を暴発させるか分からないピリピリした家庭では、子どもが常にアンテナを張っていなくてはいけません。不安を抱え続け、不眠にもなります。

 「自分が両親の間の暴力を止められない」と無力感や罪悪感を持ってしまう子もいます。すると、自己評価が低くなり、心の発達にも影響します。対人関係がうまく築けなかったり、感情のコントロールがうまくいかなかったりということにつながっていく恐れもあります。

 脳科学の研究では最近、親の怒鳴り声を聞くと、子どもの脳に悪影響が起きるという指摘もされています。

 そもそも、DVを受けている親は、自分の身を守ることで精いっぱいとなり、育児の優先順位が低くなり、子どもを養育する力が低下してしまうことがあります。すると、親子の愛着形成にも負の影響が出てきてしまいます。

夫婦間では言い争いになったりすることもあります。どこからがDVになるのでしょうか。

 被害者が心理的なダメージを受ければDVにあたります。加害者が夫婦げんかの範囲と思って暴力をふるったとしても、被害者が恐怖に感じれば、その時点でDVです。殴ったり蹴ったりする暴力だけでなく、暴言も同じです。「生きている価値はない」「なんでこんなこともできないのか」と繰り返し言われることで、精神的に支配されてしまっている被害者もいます。

面前DVを防止するためにどんな方法があるのでしょうか。

 難しい問題です。加害者はDVという意識がない場合が多いからです。まずは多くの人が、暴力はパートナーや子どもたちにいろいろな影響を及ぼすということを知っていくことが大切なのではないでしょうか。

 また、DVの加害者は男性が多いと感じています。DVの相談窓口というと、女性向けと思われがちです。でも、最近は暴力をふるってしまったという男性や、被害を受けている男性の悩みを専用に受け付ける相談窓口を設けている自治体もあります。悩んでいる男性から相談されたり、「大丈夫かな?」と心配に感じた時には、そうした窓口を教えてあげることが、子どもを守ることにもつながるのではないでしょうか。

まつの・まこと

 昭和学院短大人間生活学科教授(こども発達専攻)。1990年に専門職(心理)で千葉県職員採用。児童相談所や女性サポートセンターなどで、虐待や障害児の相談対応、DV被害者支援や加害者対策などに携わった。2016年4月から同短大勤務。

<特集「ストップ 子ども虐待 わたしたちにできること」トップはこちら

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  • おにぎり says:

    私は面前DVを受けていました。

    母や兄は父に髪を握られひきずりまわされたり、首根っこをつかまれて壁に押し付けられたりしていました。

    本当に母が命の危険を感じて警察に電話してと叫んだので、小学生の私が固定電話まで走って震えながら110番通報し、必死に状況を説明して住所を答えたのをよく覚えています。

    いつ父の怒りのスイッチが入るか分からないので同じリビングにいると心臓がキュッとなりますが、あまり拒絶を表情に出すとそれでも不機嫌になるので、心と反する振る舞いをする必要がありました。

    現在は離婚したので平穏な生活を送れていますが、私は母や兄と比べて直接的な暴力は受けていないので、どこか後ろめたく感じてしまうときもあります。

    思い出して今でも一人夜通し涙が止まらなくなることがあり、面前DVは一生の傷になります。

    おにぎり 女性 20代
  • ゆゆゆぴ says:

    7歳ぐらいの時に父親から風呂で溺れされそうになって泣いたら母親が来て、何があったの!?って聞いたら遊んでただけだよと言った父親の顔が忘れられない。

    父親から母親への暴力、暴言。

    勉強してる時の親の性情事。(母親は止めてっと小声で言ってる。)でも声やその他の音が聞こえる。気持ち悪かった。

    常に父親を怒らせないようにヨイショの生活。39にして初めてまともにバイトが出来るくらいになった。

    そのぐらいに幼少期のトラウマはダメージデカいと思う。

    ゆゆゆぴ その他 30代
  • あ。 says:

    私、DVされています。無視という形で。子ども3人いますがみんな夫に対し、恐怖と諦めがまじっています。

    子どもが高校の担任の先生に、パパがママを無視する。二か月に一回くらいする。そうなると、家中をドンドン不機嫌そうに歩く。物を雑に扱う。ママだけを完全無視する。歩いたりするその音でトラウマがでてきちゃう。家に帰りたく無い。しんどい。つらい。

    と相談してくれて、学校から私に電話が来て、これは児相に報告案件です。お母さん大丈夫ですか?と聞いて下さいました。きっと児相にも連絡が入りました。

    子ども3人とも発達障害で生きづらさを抱えているので、離婚は難しいとかんがえていて、ずっと一歩が踏み出せなかった。あと、私の頑張りが足りないからだと思っていた。完全な洗脳だと感じています。

    子どもに過去の虐待についてきいたら、寝てたら足で顔を踏まれて暴言吐かれた。と言っていました。証拠はありませんが、子の証言もありますし、子ども全員も手を出されたり、無視されたりした被害者です。

    子ども3人と私の4人で楽しくくらしたい。願いはそれだけです。

    あ。 女性 40代
  • やすこ says:

    面前DVが、虐待の一つだと初めて知りました。自分は直接、虐待を受けていなかったので…父親が母親を殴りボクサーの試合後の様な紫の顔に目の周りは切れ血まみれ、9歳の私には過酷な現実でした。

    今、9歳の息子がいます。息子と自分が9歳に直面した過去を重ね合わせると涙がでます。今は、幸せな生活をしていると思います。しかし、結婚に至るまで、本当にろくでもない男と付き合う連続でした。幼少期と自己受容感、ダメ男を好きになる等、つながることを最近知りました。

    父は17歳の時、死亡。母は母でダメ夫の事で苦しかったと思いますが、親族と性的関係に。父も母も未熟な親の元に生まれた私ができる事は息子に同じ目に合わせない事です。しかし、今も時々トラウマに苦しみますし非常に残酷で極端な性格です。

    やすこ 女性 40代
  • says:

    お父さんが怖い助けて
    お母さんにたくさん理不尽にあたって、
    私にいってないけどお母さんを守りたいよ。前、味方したでも味方すると私が傷つく言葉を言われる。お母さんを助けてあげて私はいいからお願い誰か助けてあげて、私はいいから誰か誰か助けて?何言っても誰も助けてくれない。
    私の居場所は無い、死にたい。
    私がね笑顔になれるのはYouTubeだな〜こうやってインターネットに子供ははまっていけのかな?あーあもう誰かと交換したい人生だなぁ〜

    。 無回答 10代

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